2012年5月18日金曜日

国有東電の軌跡 政府と東電の攻防 一日ノルマ1000件処理

「それなら潰してほしい」 国有東電の軌跡(迫真)     2012/5/14 2:04

東京電力会長の勝俣恒久(72)は声を震わせた。
4月19日昼、都心のホテルオークラ。
民主党政調会長代行の仙谷由人(66)が、
東電社長の西沢俊夫(61)を交代させる意向を告げた時だ。

国の関与や人事を巡る攻防が続いてきた(左から枝野経産相、下河辺東電次期会長、勝俣現会長)
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国の関与や人事を巡る攻防が続いてきた(左から枝野経産相、下河辺東電次期会長、勝俣現会長)

「そんなことまで言われると……こちらにも五分の魂があります。
それなら潰してください」。
同日の朝刊各紙は、
弁護士出身で原子力損害賠償支援機構の運営委員長を務める
下河辺和彦(64)の会長起用と、西沢の社長交代を伝えていた。

西沢は就任してまだ1年。「西沢だけはなんとか続投させていただきたい」。
捨て身の勝俣に、仙谷はうなずかない。
「さすがに言い過ぎでしょう。『五分の魂』と言われるが、こちらにも言わせてほしい。
(東電問題は)政治的にも大変なんです」。
首相の野田佳彦(54)の後見役でもある仙谷は
「去る人があれこれ言うのはよくない」
と人事の主導権が旧体制にはないことを通告した。
勝俣はぶぜんとした表情でホテルを出た。

同じ日の夕方、下河辺は首相官邸を訪ねた。
野田から会長の就任要請を受けた後
「個人的にはやはり社長を交代していただきたい」と記者団に語った。
この段階で新社長の扱いに触れないことは
東電や政府の関係者の共通認識になっていたが、下河辺の独断が覆した。
西沢続投の望みが絶たれた瞬間だった。

勝俣と仙谷、経済産業相の枝野幸男(47)は、
東電に出資する国が議決権をどれだけ握るかでも火花を散らした。
「国民をなめている。資本注入して経営陣を入れ替える」。
昨年のクリスマスを前に原賠機構の幹部が息巻くほど、
政府・機構の東電への不信感は頂点に達していた。

昨秋、勝俣は福島の原発を本体から切り離す構想を
議員に説明して回っていた。
原発を東電や原子炉メーカー、機構などが出資する新会社に移し、
東電はそれ以外の事業に集中する内容だ。
廃炉や賠償だけ切り離して(東電が)身軽になる発想は許さない」。
昨年12月22日、企業向け値上げの方針を「権利」
と唐突に発表したことも枝野や機構の怒りを招いた。

「(枝野には)ほとほと困っている」。
勝俣は霞が関の最強官庁で人脈もある財務省に近づく。
財務省は国の負担増を嫌い、東電の経営権を握るのに慎重だった。
勝俣は「政府内で意見が一致していない」と見定めた。
財務次官の勝栄二郎(61)との連携を警戒する機構内で
2人は「勝―勝ライン」と呼ばれた。

だが枝野は強硬姿勢を崩さない。
「出資額に見合った議決権がなければ、総合特別事業計画を認定しない」。
枝野は東電への出資と引き換えに国の管理下に置く方針を西沢に宣言した。
悲願の消費増税法案を仙谷らに頼む財務省も軟化を始めた。
3月中に議決権を当初2分の1超、
潜在的に3分の2以上を機構が握ることで決着した。

人事や国の関与で押された東電。
原発事故に伴う未曽有の負担が残った。
勝俣は原子力損害賠償法で東電が賠償を免責されなかった時、
政府を訴えなかったことを悔やんでいる。
異常な天災が理由なら国に肩代わりを求める声は根強くあった。
東電には、力でねじ伏せようとする政府・機構が理不尽に映った。

枝野や機構も傷を負った。
2月には国有化に反対する経団連会長の米倉弘昌(75)と枝野の確執が表面化。
東電の会長選びで経済界は背を向けた。
企業経営の経験がない下河辺に託す不安はくすぶり、
東電内の守旧派との攻防も待ち受ける。(敬称略)

                     ◇

国が1兆円を使うかつてない企業再生は日本経済の行方すら左右する。
「国有東電」が誕生する軌跡を追った。

クリスマスの頃、仙谷は都内のホテルで「国に経営権を渡したらどうか」
と迫ったが、勝俣ははねつけた。
「IPP(独立系発電事業者)とPPS(特定規模電気事業者)の
違いもわからない人たちに、かき回されたくない」。
専門用語を使い“素人”の機構に経営できないと反論した。

東電改革、機構の指南役も割れた(迫真)
国有東電の軌跡

2012/5/15 3:30
 政府が東電の総合特別事業計画を認定した2日後の5月11日夜。
東京・虎ノ門の原子力損害賠償支援機構の一室で内輪の慰労会が開かれた。
「ご苦労さま。ようやく東京電力の改革が始まります」。
機構トップの運営委員長を務め、
東電会長に就く下河辺和彦(64)はビールを片手に職員らをねぎらった。

機構の内部でも確執があった(葛西氏=左=と吉川氏)
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機構の内部でも確執があった(葛西氏=左=と吉川氏)

計画の原案を練った機構は官僚の出向者、弁護士などからなる「多国籍軍」。
経営者OBなど指南役の運営委員も参画している。
コスト削減の上積みや持ち株会社化の検討――。計画は東電に苦い薬を並べた。

東電と機構は経営改革を巡り対立を重ねてきた。
ただ機構も一枚岩だったわけではない。

運営委員の会合で総合計画の議論が大詰めを迎えた2月下旬。
意を決したようにJR東海会長の葛西敬之(71)が持論を述べた。
「合理化もすればいいわけではない。持ち株会社を良いと言わない人もいる。
発送電分離も(効果が)わからない」。
計画に入る流れだった論点を一つずつ切り崩そうとした。

葛西と同じ経営者枠の委員、
DOWAホールディングス相談役の吉川広和(69)が割り込んだ。
「持ち株会社に何も問題はない」。
環境分野で持ち株会社を運営してきた自らの経験をもとに反論。
「感覚的な総論を話しても仕方ない。
このままの方針で行ってくれ」と合理化などを急ぐよう訴えた。

同席した東大教授の松村敏弘(47)も
「大演説はマスコミで発表してほしい」と吉川に加勢した。
葛西は「原理主義者には何を言ってもわからないよ」と応酬したが、
東電に厳しい合理化を迫る方向が固まった。
下河辺は両論併記を良しとせず、吉川らの主張に軍配を上げた。

葛西、吉川、松村らは昨年10月に東電に関する報告書をまとめた
「経営・財務調査委員会」のメンバー。
一方で葛西は東電会長の勝俣恒久(72)と財界人の会合を囲む。
前経営陣との距離で委員間に違いがあった。

下河辺は4月下旬から東電の役員らを連日、機構に呼び込む。
電力料金の説明書類にある「低圧・高負荷」の文字をみて
「なぜお客様に『負荷』という言葉を使うのですか」と質問した。
6月の正式な会長就任を前に
柔らかな口調ながら利用者の目線で意識改革と行動を迫る。

11日の慰労会。下河辺は「淡々と計画を実行するだけだ。
案外に自分の神経がずぶといと思った」とあいさつした。
葛西は姿を見せなかった。(敬称略)

1日1000件のノルマ 東電改革担う次期社長(迫真)
広瀬氏「すべてはフクシマを起点に」

2012/5/18 3:30
5月2日午後、原子力損害賠償支援機構運営委員長の下河辺和彦(64)は東京電力常務の広瀬直己(59)を機構本部(東京・港)に呼んだ。

役員人事について記者会見する広瀬次期社長(右)と西沢社長(14日)
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役員人事について記者会見する広瀬次期社長(右)と西沢社長(14日)

 「一緒に戦える人間を自分で見て決める」。
東電会長が内定している下河辺は
東電改革を一緒に進める次期社長を選ぶため、
4月下旬の大型連休も使って、
常務と執行役員約30人との個別面接をこなしてきた。
主要な役員で最後の相手が広瀬だ。

 下河辺は都立戸山高、広瀬はそのライバル校の新宿高の出身。
両校伝統の運動部対抗戦の思い出話に花が咲く和やかな雰囲気で40分が過ぎた。
下河辺はこの面接で広瀬との相性の良さを見極めた。
「広瀬次期社長」が決まった瞬間だった。

 平岩外四会長の秘書役、企画、営業――。
広瀬は東電では珍しく多くの仕事に関わった。
社長の座が近いとも見えなかった広瀬の存在感が高まったのは昨年12月以降。
「値上げは権利」と発言した社長の西沢俊夫(61)が批判を浴びたころ、
賠償問題担当の広瀬も針のむしろにいた。
機構理事長の杉山武彦(67)から「賠償金支払いが遅い」と対応を迫られていたのだ。

 「できる限りのことをします」。広瀬は部下に1日1000件の処理ノルマを課す。
終電を逃す担当者も続出したが、未処理書類は目に見えて減り、
機構内で広瀬の名前が知られる。

 地元や陳情団と対してきた広瀬は
東電の常識が社外の非常識に映る現実を痛感していた。
地元との折衝について上司、部下を問わず
「フクシマにどう映るのか考えて行動してほしい」と注文をつける広瀬は
「社内外がよく見えている」(東電幹部)と頼りにされるようになった。

 5月7日、西沢からの呼び出しを受け、
東電本店(東京・千代田)11階の社長室に足を踏み入れた広瀬は
その場に西沢と会長の勝俣恒久(72)が並ぶ姿を見た瞬間に悟った。
「後を頼む。君しかいない」。
社長就任を即答した広瀬は「イエス・ノーの返答の選択も、
考える時間の猶予も許されないと思った」と知人に漏らしている。

 5月8日、下河辺は経済産業相の枝野幸男(47)に「広瀬次期社長」を報告。
枝野は「顧客目線を持ち改革意欲がある」と持ち上げた。
社員の年収は2割減り、2011年度は約460人が依願退職した。
士気が低下した社内にどう改革意欲を吹き込むのか。
その問いかけに広瀬は「すべてはフクシマを起点に考える」と語った。

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