2013年6月29日土曜日

2013年 平成25年度1/4期 円株・金融市場動向

金融市場、不安心理が後退 各国中銀相次ぎ「火消し」

          2013/6/28 23:06
 動揺が続いていた金融市場で、過度な不安心理が薄れつつある。28日の東京市場では円相場が約3週間ぶりの円安水準となり、株式市場では日経平均株価が今年3番目の上げ幅を記録するなど「円安・株高」となった。米金融緩和の早期縮小や中国の金融不安が重荷となっていたが、米欧中の中央銀行幹部が相次ぎ「火消し」に動き、市場をひとまず沈静化させた形だ。
 28日の東京外国為替市場では円相場が一時1ドル=99円台に下落。6月中旬には93円台に上昇したが、再び円安・ドル高基調に転じた。株式市場でも日経平均が2日続伸し、計843円(7%)上昇。心理的な節目の1万3000円を上回った。
 市場動揺の起点になったのは米連邦準備理事会(FRB)だ。19日にバーナンキ議長が年内の緩和縮小の方針を示したのを受け、米市場で株安・債券安(金利上昇)が進行。新興国市場からの資金流出や中国の金融市場混乱も重なり、世界的に運用リスクを避ける傾向が強まっていた。
 反転のきっかけをつくったのも、米欧中の中央銀行幹部による「火消し」発言だ。
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 25日には、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が緩和継続の方針を強調。当のFRBも幹部が緩和縮小の時期を遅らせる可能性に言及し、市場の動揺を抑える戦略をとった。
 もう一つの震源地である中国。中国人民銀行(中央銀行)が「影の銀行(シャドーバンキング)」対策で市場への資金供給を絞り、株安を招いた。だが、28日には周小川総裁が「市場の安定を守る」として資金供給に柔軟な姿勢を示し、不安心理の払拭に動いた。

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 市場混乱への危機感を共有した各国中銀幹部の発言で「過度に悲観的だった投資家心理が持ち直した」(大和証券の成瀬順也チーフストラテジスト)。
 日銀も28日に計6400億円の長期国債の買い入れオペ(公開市場操作)を実施、6月の買い入れ総額は8兆円を超え、過去最高となった。当初月間7兆円強とした買い入れ額を柔軟に増やす姿勢を示し、国内の長期金利は足元で0.8%台で落ち着きつつある。
 28日は三菱地所など不動産株が軒並み上昇。三井住友フィナンシャルグループなど銀行株も買われ、相場全体を底上げした。金利の不安定さを背景に売られていたが、金利が落ち着き「割安感が出てきた」(メリルリンチ日本証券の神山直樹チーフストラテジスト)。
 円安による輸出企業の採算改善期待も大きい。製造業では13年度の業績予想の前提を1ドル=90~95円とする企業が多い。大手証券の試算では、1ドル=100円を前提に国内企業の業績を予想し、割り出した日経平均の適正水準は1万3000円台から1万4000円台との声もある。
 もっとも、市場参加者の間では米国の金融政策や中国の金融不安への警戒感はなお根強い。「1ドル=100円は視野に入るが、もう一段円安が進むほどの力強さはない」(国内銀行)との声もあり、このまま円安・株高が進むかは不透明だ。
 28日の米株式市場では景気指標の悪化を受け、ダウ工業株30種平均が反落、下げ幅は一時120ドルを超えた。来週は米雇用統計など重要な経済指標の発表も相次ぐ。「当面は値動きの荒い展開が続く」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘投資情報部長)との見方が多い。
 
東証大引け、大幅続伸 円安・米株高で今年3番目の上げ、6月期末を意識も
 
                              2013/6/28 15:30
 6月最終営業日となった28日の東京株式市場で日経平均株価 は大幅に続伸した。終値は前日比463円77銭(3.5%)高の1万3677円32銭だった。上げ幅は今年3番目の大きさで、5月31日(1万3774円)以来、1カ月ぶりの高い水準を付けた。前日の米株式相場の上昇や円相場の下落を好感した買いが先行した後も、断続的な買いに支えられて徐々に上げ幅を拡大した。海外機関投資家の買いや仕掛け的な株価指数先物買いが上げを主導したとの見方が多い。
 一部海外投資家の決算期にあたる6月末を迎え、株価水準を押し上げておきたいとするドレッシング(お化粧)買いが終日入っていたとの指摘も聞かれる。日経平均は5月22日に年初来高値を付けた後、大幅に下落する場面もあっただけに、株価指数だけでなくこれまで大きく調整してきた不動産株などにも買いを入れる動きが目立った。連日での相場急伸で、強気に転じた投機マネーによる先物買いも活発化したという。
 上海株式相場が小幅ながら朝安後上げに転じたことや、円相場が一時1ドル=99円台まで下落したことが材料視される場面もあった。日経平均が、これまで上値抵抗として意識されてきた25日移動平均を上回ったことも、買い安心感を誘ったという。ただ、前日(379円高)に続く需給主導の上昇について、市場では「やや上げが急ピッチ過ぎる。売買高の増加も限定的で、来週は反動で調整する場面もありそう」(証券ジャパンの大谷正之調査情報部長)と、先行きに慎重な見方も聞かれた。
 東証株価指数 (TOPIX)も大幅に続伸した。
 東証1部の売買代金は概算で2兆6078億円、売買高は31億9097万株と最近では活況だった。東証1部の値上がり銘柄数は1602、値下がり銘柄数は82、変わらずは28だった。
 トヨタ が売買を伴って上昇し、6000円台を回復する場面があった。三菱UFJみずほFG三井住友FG がそろって上昇し、マツダ野村ソフトバンク富士重ソニー が買われた。菱地所三井不 が連日の大幅高。ファストリ は1銘柄で日経平均を80円近く押し上げた。丸紅伊藤忠 が小幅に下落し、カーバイドJパワー の下げが目立った。
 東証2部株価指数は大幅に続伸した。朝日インテク高木不二サッシM2J が上昇した。
〔日経QUICKニュース(NQN)〕




  

2013年6月23日日曜日

Wall Street通信 アベノミクス相場とルーズベルトの教訓

失速アベノミクス相場、米ルーズベルト大統領の教訓

 米金融政策をめぐる不透明さもあり、不安定な動きが続く世界の株式市場。とりわけアベノミクスによる急上昇の後、相場が一気に崩れた日本株には米投資家も浮足立っている。だが未曽有の金融緩和と通貨安を背景とする株高が突如として終わった例は過去にもある。1933年秋、大恐慌からの脱出をめざした第32代フランクリン・ルーズベルト大統領の時代だ。教訓は何か――。

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 2つの、とてもよく似たチャートがある。1つは、年初からの日経平均株価。もう一つが、33年春以降のダウ工業株30種平均だ。ともに相場が半年足らずで倍前後になった後、突如として2割も急落した。

 日経平均の動きに多くの説明は不要だろう。デフレ脱却に向けた大規模な金融緩和と円高の是正を掲げる安倍晋三政権が昨年12月に発足する前後から株価はほぼ一本調子で上昇。4月4日に日銀が「異次元緩和」を発動後この動きは加速したが、2カ月もしないうちに相場は巻き戻し4月以降の上昇を帳消しにした。
 この展開は80年前の米国と共通点が多い。大恐慌さなかの33年。やはりデフレ解消と金本位制からの離脱によるドル切り下げを訴えるルーズベルト大統領の就任を目前に、ダウ平均は急ピッチの上昇を始めた。
 大統領は就任直後の4月、宣言通り金本位制から離脱。さらに米連邦準備理事会(FRB)に、緩和策の抜本的なてこ入れを迫る。FRBは前年に10億ドルの米国債を買う「元祖・量的緩和」を始めていたが、これでは不十分とみて、30億ドルの米国債の直接引き受けを可能とする法案を議会に働きかけて通したのだ。
 まだ歴史が浅いFRBにとっては金融政策への異例の政府介入。法律にはFRBが買い取りに応じない場合は、米政府がFRBの代わりに通貨を発行できる条項も盛り込み、FRBに大きな圧力をかけた。大統領は物価を「危機前の水準に戻す」という、事実上の物価目標も示した。
これら一連の緩和策を受けて株価は上がり続けたが、7月に突如つるべ落としとなった。日本では株価急落の理由が「安倍政権の成長戦略への失望」と説明されたが、米国の場合はルーズベルト大統領が企業に賃金の2割引き上げを命じたのがきっかけ。実際この政策は、その後の米国の生産活動を大きく圧迫することになった。
 日本に目を転じれば、安倍政権も最低賃金の引き上げをめざしている。一般国民の目を意識せざるを得ない指導者がデフレ対策に取り組むとき、賃金底上げが魅力的な政策に映るのは古今東西で共通のようだ。ただ、その程度しだいでは市場にも景気にも水を差すとの教訓は導けるだろう。
 一方、80年前の米株価急落の理由を市場そのものの特性と当局の政策とのすれ違いに求める見方もある。ごく単純化すれば、常に新たな情報を必要とする市場の期待を当局が維持できなかったとの分析だ。
 代表的な論者は大恐慌の著名な研究者、ベントレー大学のスコット・サムナー教授だ。金融政策は、物価や雇用でなく名目国内総生産(GDP)を目安にして運営すべきだと最初に訴えた人物で、この案はFRB内でも真剣に議論されている。
 同教授は「マーケット・マネタリスト」と呼ばれる新たな学派の中心的存在。金融政策では、市場の期待に働き掛ける『合理的期待形成』を重視。同時に将来への期待は時差を置かず市場の動きに映し出される、との立場をとる。サムナー教授は取材に対し、市場への自身の洞察をこう説明する。
 「ある政策を打ち出すと期待の変化は、直ちに市場の価格に映し出される。日々の市場の水準は、そのまま将来への期待の反映だ。現在の市場価格は将来へ期待をすべて織り込んで形成されている。だから、相場が変動するには常に新たな情報が必要。いったん政策を打ち出せば、その効果で自動的に相場が上がり続けると考えるのは誤りだ」
 ルーズベルト大統領の就任を前に米株式相場が上がったのは、予想されるドル切り下げを織り込んだため。その後、実際の金本位制からの離脱や追加の金融緩和が決まる過程では期待が現実味を増した分だけ株価を押し上げたものの、やがて市場が対策の効果を反映し尽くした時点で相場は失速した、との解釈になる。
 ダウ平均の急落を受けてルーズベルト大統領は10月、次の手を打つ。大統領の権限で金を購入し金の公定価格を決める「金購入プログラム」の開始だ。
当時もまだ多くの国々は通貨の価値を金に結びつけていたので、金価格の引き上げは「ドルはまだ高すぎる」という米国の不満表明の手段になった。大統領は、商品価格の指標でもある金価格の引き上げを通じて物価押し上げへの意志を表明したいとも考えていたようだ。
 側近の日記などには、ルーズベルト大統領がベッドの中や朝食の席でその日の金相場を思いつきで決める様子が出てくる。ある日、ルーズベルトは金価格を1オンスあたり21セント引き上げるべきだと主張。側近が理由を問うと「7の3倍でラッキー・ナンバーだからだ」と答えたことは知られている。
 市場に手口を読まれないよう価格決定をあえて不規則にして、注目を集めようとしたとの見方もある。だが、ここでサムナー教授の指摘する市場のやっかいさは、いっそう鮮明になる。
 大統領は金を買う(ドルを切り下げる)か、買わない(何もしない)かの2通り。金を売ってドルを切り上げることはない。すると金を買わない日は、それが悪材料とみなされ金価格は下げる傾向が続いた。株式市場でも、それが悪材料をみなされた。つまり、市場は「大統領は金を買う」という期待を基準に実際の行動がどうだったかを判断するから、何もしないことは悪材料とみなされる。
 「便りがないのは良い便り」というが、こと市場に関しては「便りがないのは悪い便り」なのだ。サムナー教授は「政策をめぐる前向きなニュースが流れている間は相場の上昇が続くが、太鼓の音が鳴りやんだとたん下落に転じる」と指摘。これがルーズベルト大統領と同様、安倍首相・黒田東彦総裁のコンビが、まさに直面している問題でもあると話す。
 つまり異次元緩和を含むアベノミクスは、その内容が知れ渡り、想定される効果が市場で消化されたあとは、もはや相場を押し上げることはできない、というのが教授の見立てだ。
 だが、黒田総裁は「戦力の逐次投入はしない」と強調している。いわば太鼓を一度、どんと大きく鳴らしてその余韻で相場を押し上げる手法。これは戦略ミスなのか。同教授は「戦略ミスだったかもしれない」と言う。
 ――では、どうすればいいのか。
 「今後も何でもやる、という姿勢をより明確にし、行動で示す必要がある」
 ――日銀はもう国債の発行額の7割を買っていて、流動性不足が市場を不安定にしている。
 「株式や不動産関連の資産をもっと積極的に買うことも可能だ。為替レートに上限を定めたスイスのように、為替相場に狙いを定めた何らかの政策もありうる。国際的に容認されるかは微妙だが、個人的には円相場は過大評価されており正当性はあると思う」

 ――ほかには。
 「銀行が日銀に預け入れる資金にマイナス金利を課して企業などへの融資を促す仕組みも考えられる。それから名目GDPを目標に金融政策を運営すると宣言するのも有効だ。しかも毎年のGDP成長率でなく、水準を目標にして、ある年に目標を達成できなかった場合は、翌年に持ち越して目標を上積みする。金融緩和策を加速的に強める必要があるから効果は高く、市場の期待も押し上げる」
 同教授によるとルーズベルト大統領も緩和策を強めることで市場に対抗した。1934年の1月まで続いた金購入で、金価格は1オンス20ドル強から、35ドルまで切り上がった(71年のニクソン・ショックまで続くことになる価格だ)。マネー・サプライは年率1割近いペースで伸び、34年になると物価も大きく上昇を始めた。この動きをバーナンキ議長は理事時代の2002年に、「政策金利がゼロ付近でもいかに素早くデフレから脱却できるかの顕著な例だ」と評している。
 1934年夏、大統領は今度は、銀の購入による緩和策を開始。米景気は上向き始め、いったんは下げたダウ平均も同年半ばの91ドル台から37年半ばには175ドル超と倍近くに上昇する。
 この上昇相場が再び一気に崩れたのは高値を付けた直後だ。前年からFRB内で信用拡張やインフレへの懸念が強まり、銀行に準備預金の大幅な積み増しを求める金融引き締めに動いたのがきっかけだ。これが大恐慌からの本格的な回復を遅らせたとされている。
 異例の金融緩和が長く続くと、その副作用が心配になるのは今も昔も変わらない。だから、景気の足取りが確実になるまでは緩和策を維持する、との立場をバーナンキ議長も続けてきた。
 ただ、副作用が噴き出す臨界点がどこにあるのかは、それが実際に起きてからしか分からない。現在進行形での判断は困難を極める。これはデフレ解消にまだ時間がかかる日本より先に、緩和策の出口が視野に入った米国がまさに直面している問題だ。過去の教訓が存在したとしても、実際それを生かせるかは、まったく異次元の問題なのかもしれない。
                     米州総局編集委員 西村博之       2013/6/23 6:03   [有料会員限定]



2013年6月22日土曜日

FRB100年目の試練 FOMC 円安 株乱高下

NY特急便


米緩和縮小、FRBに「100年目の試練」
NQNニューヨーク・森安圭一郎

                                                                                 2013/6/22 9:26

 今年最悪の下落から一夜明けた21日、米株式市場はやや落ち着きを取り戻したようだ。ダウ工業株30種平均は3日ぶりに反発し、41ドル高で終えた。
 「砂ぼこりが収まった時、いるべき場所は株式市場だ」。有力ヘッジファンド創業者のデイビッド・テッパー氏のこんなコメントが伝わったことも相場を支えた。強気で鳴らすテッパー氏は、米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和の縮小に動くのは「将来の景気回復を見込んだからこそ」であって、投資家は株式を買うのを恐れるべきでないと主張する。
 バンクオブアメリカ・メリルリンチのマイケル・ハートネット氏も「流動性縮小と景気拡大の組み合わせは株式にプラス」といい、債券などに比べた株式投資の優位を引き続き予想する。
 とはいえ、19日のバーナンキFRB議長の記者会見が市場に残した爪痕が大きかったのも事実。特に気になるのは長期金利の上昇が止まらない点だ。21日はついに1年10カ月ぶりに2.5%を突破。議長会見の前と比べた上昇幅は0.35%に達する。金利上昇(国債価格の下落)はゆっくり進むのであれば「債券から株へ」の健全な資金移動の証しになるが、ペースが速すぎるとマネー全体の流れに変調を招いてしまう。
 市場関係者の間では、米金利上昇をきっかけとした新興国からの資金流出が、メキシコ通貨危機に飛び火した1994年の状況に似てきたとの声も出ている。平静を回復したように見える21日の株式市場でも、金利上昇に弱い住宅株には売りが止まらず、神経質なムードが続く。
 量的緩和の「補助輪」を外すそぶりをみせただけで動揺する気難しい市場。間合いを計り間違えれば立ち直りつつある米景気の腰すら折りかねない。前例のない大規模緩和の修正を、市場にショックを与えずにやり遂げるという重大な試練がFRBを待ち構える。
 FRBが発足したのはちょうど100年前の1913年12月。米国にはそれまで中央銀行がなく、各地の銀行がそれぞれ貨幣を発行していた。だが1907年の金融危機で取り付け騒ぎが連鎖した反省から米議会が動き、流動性供給の中枢機関としてFRBを創設した経緯がある。
 危機への対処と、その「出口」との対峙(たいじ)はFRBという組織が持って生まれた宿命といえる。
 FRBには忘れられないトラウマがある。第1次大戦中、政府の戦費調達に協力して金利を低く抑えたため1920年代にインフレとバブルを引き起こした。30年代には逆に不用意な金融引き締めに転じ、大恐慌を悪化させた。
 FRBに加わる前、学者としてこの時代の政策対応を検証・批判してきたのがほかならぬバーナンキ氏だ。評価される側に回ったいま、歴史の教訓を生かせるかどうかが問われている。

株式FOCUS
FOMC受け株連鎖安、調整いつまで続く プロの見方

 
米国の量的金融緩和の縮小懸念が世界の株式市場を揺さぶり、連鎖安を引き起こしている。前日の米株式市場でダウ工業株30種平均が今年最大の下げ幅となった流れを受け、21日の東京市場では日経平均株価の下げ幅が一時300円を超えた。午後に入り急速に下げ渋る場面もあったが、資金流出に対する警戒感は根強い。調整局面はいつまで続くのか。市場関係者に見方を聞いた。


 
「日本株の調整は一巡、米株落ち着けば下値切り上げも」


りそな銀行チーフストラテジスト 下出衛氏

 FRBのバーナンキ議長が量的緩和縮小を表明し、世界的な金融相場が一巡した。海外投資家を中心とした持ち高調整の売りが日経平均を押し下げているようだ。ただ、日米の金融政策の姿勢に差が出たことで、為替相場は円安に振れやすい環境下にある。足元でも円相場の上昇は一服しており、買い戻しが入る一因になっている。日本株の調整はおおむね済んだとみており、今晩以降の米株式相場が落ち着きを取り戻せば、日本株は下値を切り上げていく展開が見込めるだろう。

 FRBによる年内の量的金融緩和縮小は市場予想通りだったが、バーナンキ議長が来年半ばに終了する可能性を示唆したことは驚きだった。ただ、緩和を縮小する背景には米経済の回復があり、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)からみれば日本株の支えになる。

 日経平均は売られすぎた分の買い戻しなどで、7月には1万4000円を回復できるだろう。一段と上値を追うには、海外景気はもちろんだが、国内の政策も注視したい。金融、財政、成長戦略と、次々と施策を打った安倍政権だが、今後は規制緩和や財政健全化など「第4の矢」が放たれることが大事だ。そのためには夏の参院選で、自民党が勝利し安定政権を築けるのか見極める必要がある。

 前哨戦である23日投開票の東京都議選の結果次第では、その期待が前倒しで高まる可能性がある。政府が切れ目無く対策を打ち続ければ、国内景気の回復や円安による企業業績の改善なども重なり、年末にかけて1万5000円程度を目指す展開になる。15年度の景気回復の持続性に確信が持てれば、さらに上振れる可能性もあるだろう。
「下値メド1万2500円、9月まで上値重い展開続く」


SMBC日興証券チーフ株式ストラテジスト 阪上亮太氏

 日経平均が大きく下げた背景は米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見でバーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長が量的緩和縮小の時期を明示したためだ。運用リスクを取りにくくなるとして、資金を引き揚げる動きが加速した。米景気の回復を前提とした緩和縮小であり「円安で株高になる」という見方も一部にはあったが、そうならなかったのは「リスク・オフ」の勢いが強かったためだろう。

 短期的な米景気の減速懸念や、新興国からの資金流出による世界景気の先行き不透明感といったものも、株安の要因とみている。加えて中国の金融市場での短期金利の急騰が下げに拍車を掛けたようだ。中国での短期金利の上昇は、資金繰りに行き詰まる金融機関が出て信用不安が高まって景気を冷やす「金融危機」の可能性もはらんでおり注意が必要だ。

 こうした外部環境のなか、日本株は引き続き乱高下する展開になりやすい。ただ、日銀の大胆な金融緩和策を手掛かりに大幅上昇した後すでに調整が始まっており、下値は限られるとみている。日経平均は、当面は1万2500円が下値の目安となりそうだ。日銀の緩和前の水準であるほか、予想PER(株価収益率)でみても世界と比べ割安感が出るためだ。いまの円安水準であれば輸出企業の業績上振れも期待できる。日本株には押し目での買いが入りやすく、1万4000円程度までは上昇余地がある。

 上値を追うには、イベントが集中する9月まで待つ必要がある。FRBが実際に9月に量的緩和を縮小するとなれば、経済指標が一段と改善しているのではないか。景気を下押ししていた財政問題の影響も徐々に和らいでくるだろう。日本では、夏の参院選で自民党が勝利すれば、追加の補正予算や金融緩和、成長戦略の第2弾などへの期待も高まる。2020年の夏季五輪の東京開催が決まれば、景気回復を後押しするとみている。こうした好材料が相次ぐならば、年内に1万6000円台を回復するシナリオも現実味が増すだろう。
                                         
2013/6/21 11:34 (2013/6/21 12:55更新)    [有料会員限定]
                                       (聞き手は酒井隆介)
 
株乱高下「円先安観が支え」「落ち着きには時間」市場関係者に聞く
 21日の東京株式市場で日経平均株価 が乱高下した。前日の米国株急落を受けて売りが先行したが、その後は次第に買いが優勢になった。日経平均は結局、前日比215円高の1万3230円で終えた。日中の高値と安値の差は627円となり、13日以来の大きさだった。株価が乱高下した背景や今後の相場見通しを市場関係者に聞いた。
■窪田朋一郎・松井証券シニアマーケットアナリスト
 朝方に先行した売りに、個人投資家などは追随しなかった。相場の底堅さを受けて、後場に入ってからは一転、買い戻しが活発になったようだ。ファストリなど日経平均株価 への寄与度 の高い銘柄が指数を押し上げた。日経平均は5月末の急落でいち早く調整し、米国株などと比べて売りが出にくくなっているうえ、個人投資家は買い越し基調を続けている。
 米国では量的金融緩和 の早期縮小懸念を株価が織り込んでいく状況とみている。一方、日本は「異次元緩和」が始まったばかりだ。投資家がリスク回避姿勢を強め、新興国から投資資金を引き揚げるなかでも、日銀の異次元緩和が買い安心感につながる日本株は買われる展開が続くだろう。円安の進行も追い風だ。値幅の大きい展開には注意が必要だが、日経平均は1万2500円近辺で下値を固める公算が大きい。
■野崎始・三菱UFJ投信チーフファンドマネジャー
 21日の日経平均株価は荒い値動きとなり、結局215円高で取引を終えた。米量的緩和政策の縮小時期が近づいてきたことは米金利上昇によるドル高・円安につながり、中期的には日本株にプラスだと考えている。きょうの後場の上げも円安期待を背景に日本株の先高観を強めた投資家の買いだと見ている。
 もっとも、グローバルな流動性供給につながった米量的緩和の規模縮小が現実味を帯びたことで、世界の金融市場は動揺している。落ち着きを取り戻すまでは時間がかかるだろう。今後1カ月の日経平均は1万3000円前後で方向感のない値動きに終始しそうだ。
 日経平均は13日に1万2445円を付け、5月23日からの下げ基調は一服したと見ている。高値から3000円超下げ、値幅調整は一巡した。再び上昇基調に戻るには日柄調整が必要だ。
 経験則的には日柄調整には1~2カ月かかると見ている。5月23日から約2カ月後の7月21日には参院選の投開票が控える。参院選の結果でファンダメンタル(経済の基礎的条件)や政策期待が変わるわけではないが、参院選を通過したことが日経平均の再上昇の契機になる可能性はある。
■藤代宏一・第一生命経済研究所副主任エコノミスト
 朝方は前日の米国株急落を受けて売りが膨らんだが、買いが次第に優勢になった。買いの背景は中長期的な円相場の先安観だ。このところ、円相場は企業の想定レートの平均的水準である95円前後で推移していたが、徐々に円安方向に戻ってきている。足元で低下した企業業績の上振れ期待が再度高まってきたことが日本株の支えとなっている。
 18~19日の米連邦公開市場委員会 (FOMC)前までは、米量的緩和の早期縮小による世界的な緩和マネーの巻き戻し懸念の一環で、円売りポジションの解消が進んだ。バーナンキ米連邦準備理事会(FRB )議長が年内の縮小開始の方向性を示したことで不透明感が和らいだため、外国為替市場ではリスク回避を背景とした円売りポジションの巻き戻しは起こりづらくなった。むしろ、日米の金利差拡大をにらんだドル買い・円売りが進むとの見方が強まっている。
 円安を背景にした日本株の上昇基調は崩れておらず、日経平均株価の年内の上値メドとしては1万7000円前後とみている。
〔日経QUICKニュース(NQN)尾崎也弥、矢内純一、椎名遥香〕         
                                                       2013/6/21 16:00[有料会員限定]
 
株式FOCUS
米緩和縮小で動き出す「円安・株高」第2幕
 
20日午前の東京市場で日経平均株価 は反落し、長期金利 も一時上昇(債券相場は下落)した。19日(日本時間20日未明)に米連邦準備理事会(FRB )のバーナンキ議長が記者会見で「年内に証券購入のペースを緩やかにするのが適切と考えている。2014年半ばには証券購入を終了させたい」と表明。量的緩和の縮小時期が市場の想定より早いとの見方から、米国株と米国債 がともに売られた流れを受け継いだ。だが市場関係者は米景気拡大を反映してドルが買われ、海外市場で一時1ドル=97円台まで円安が加速したことに注目。米国の出口戦略の本格始動がドル高・円安を通じて、日本株の上昇につながる可能性を意識しつつある。

19日、ワシントンで記者会見するFRBのバーナンキ議長=ゲッティ・共同
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19日、ワシントンで記者会見するFRBのバーナンキ議長=ゲッティ・共同
 FRBは19日まで開いた米連邦公開市場委員会 (FOMC)で事実上のゼロ金利政策 の維持を決定した。その後のバーナンキ議長の量的緩和縮小に関する発言を受け、ダウ工業株30種平均株価 は前日比206ドル(1.3%)下落し、米10年物国債利回り は前日比0.17%高い2.35%に上昇した。20日の東京マーケットも株安・債券安で始まったが、市場関係者の間では「資産購入の終了時期にまで踏み込んだバーナンキ議長の発言は事前の市場予想に比べタカ派的で、米国株・米国債が売られた。出口戦略に取り組んでいる米国の実体経済は強く、今後は円安・株高の基調が強まる」(SMBC日興証券の宮前耕也エコノミスト)との見方が広がっている。

 市場の方向感を分けているのは、米量的緩和の縮小を世界的な流動性相場の終わりとみるか、米経済の改善による本格的な業績相場 の始まりと捉えるかの違いだ。この点について、野村証券の伊藤高志エクイティ・マーケット・ストラテジストは「量的緩和の出口を明確に意識している米国と、アベノミクスを進めている日本では景気の状況が異なり、日米株は必ずしも連動しない。米国の景況感の強さを反映したドル高は、ドイツや韓国などによる円安批判を引き起こす余地がなく、日本株にとってプラスだ」と指摘する。
 アベノミクスの大胆な金融緩和と黒田東彦日銀総裁が打ち出した量的・質的金融緩和を手掛かりに、日経平均は5月22日に1万5627円の年初来高値を付けた。しかし代表的な投資指標である予想PER (株価収益率)は同日終値時点で17.77倍(東証1部)と、やや割高感が指摘される水準に上昇していた。その後の相場調整によって、6月19日終値時点では15.41倍に低下。米国株と同じ15倍台となり、世界的にみて日本株の割高感は解消されている。

 日経平均は5月29日に5日移動平均線 が25日移動平均線を上から下に突き抜ける「ミニ・デッドクロス」を形成したが、ここにきて5日移動平均線の上昇転換によって両者は再び接近しており、相場の調整には一巡感が出ている。さらに7月に入ると14年3月期第1四半期(13年4~6月期)の決算発表が始まる。期初時点の業績予想が慎重だったこともあり、四半期決算 発表と同時に、通期業績予想を上方修正する企業が相次ぐ可能性がある。予想1株利益の上方修正に伴い、株価の水準訂正も進むだろう。
 大和証券の藤倉敬グローバル・エクイティ・トレーディング部長は「企業業績がよくなることは大事。海外でも日本株に詳しいファンドは上方修正があっても織り込み済みと受け止めるが、他の多くの投資家は修正内容を確認して買いを入れる」という。
 第1四半期決算発表の7~8月、現状のドル高・円安基調が続けば4~9月期決算が開示される10~11月には、通期業績予想の上方修正が増える。12年11月以降の急騰局面で買い遅れていた内外の機関投資家が、企業業績の改善を確認して日本株に買いを入れる。13年の年末終値が1万395円を上回れば、日本株は2年連続の上昇となる。2年連続で上昇した市場には14年以降、一段の資金流入増も予想される。
 米国の量的緩和縮小がもたらすドル高経由の好環境を日本株が享受するのはこれからだ。「円安・株高」を背景に躍進するアベノミクス相場の第2幕が始まりつつある。
(電子報道部 小林茂)      2013/6/20 12:00    [有料会員限定]






 

 


2013年6月21日金曜日

日銀当座預金、83兆円

日銀当座預金、83兆円に 過去最高 インフレ期待なお弱く

金融機関が日銀に預ける当座預金残高が20日、83兆円を超え、過去最高を更新した。日銀が4月に導入した量的・質的金融緩和前と比べ、ほぼ2倍になった。日銀は金融市場に大量の資金を供給してデフレ脱却を目指すが、市場の期待インフレ率は低下しており、乗り越えるべきハードルは依然残っている。
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 20日の当預残高は速報ベースで前日比7兆3700億円増の83兆3400億円になった。国債の償還や、日銀が金融機関の融資増加分に対して低利資金を供給する新たな資金供給制度の影響で残高が膨らんだ。
 日銀は今後2年間でマネタリーベース(資金供給量)を2倍に増やす目標を掲げている。その主要な手段になるのが、金融機関が保有する国債を大量購入し、金融市場に資金を流し込むことだ。日銀は当預残高が2013年末に107兆円、14年末には175兆円まで増えると見込んでおり、緩和規模を着々と拡大させている。
 これに対し、物価連動国債の利回りから算出する期待インフレ率は5月に入ってから低下基調をたどる。日銀の岩田規久男副総裁は3月の就任前の講演で「当座預金が10%増えると予想インフレ率は0.44%上昇する」と語ったが、必ずしも想定通りにインフレ期待は高まっていない。
 市場では「当預残高が積み上がることの効果は乏しく、金融機関の融資増加などがカギになる」(東短リサーチの加藤出チーフエコノミスト)との指摘も出ている。

2013年6月20日木曜日

安倍政権半年、株価変調に焦り 高支持率は維持

2013/6/23 3:30      [有料会員限定]
 
 第2次安倍内閣が発足して26日で半年を迎える。大胆な金融政策など一連の「アベノミクス」の経済政策によって株価は上昇し、円高も是正。内閣支持率は高水準を保ってきた。ただ、最も重点を置く参院選を目前に控えて、株価や円相場は変調を来している。訪米や訪ロで積極的な首脳外交も展開したが、中国、韓国との関係改善は手つかずで、課題も多く残す。
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■落胆隠さず
 「落ちちゃったね」。安倍晋三首相が「アベノミクス」の3本目の矢となる成長戦略を自ら発表した今月5日。発表直後に日経平均株価が前日比500円超下がったことが耳に入ると、周囲に落胆を隠さなかった。
 21日の株価終値は1万3230円13銭と昨年12月26日より約3000円高く、円相場も1ドル=97円台で12円近く円安に振れた。内閣支持率も60%台と健闘している。それでも株価が終値で1万5600円台に乗せた5月下旬に比べ「見劣りする数字」(政府関係者)なのは否めず、いつ安定するかも見通せない。
 首相が株価や円相場に神経をとがらせるのは、支持率の推移とはっきり連動しているからだ。5年半の長期政権を築いた小泉純一郎元首相は在任中、「株価につながる円相場の動向を執務室で毎日チェックしていた」(安倍首相周辺)。選挙を前にわかりやすい形で実績を作っておきたい――こんな思いがにじむ。
 「成長戦略の公表で株高に弾みをつけて選挙に臨む」(経済閣僚)思惑だったが、目算通りとは言い難い。政府内には「何とか株高・円安に戻さないといけない」(政務三役)との焦りも見える。

■13カ国訪問

 首相が得意と自負する外交面でも目に見える成果を追求する。就任以来「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」を掲げ、米国やロシア、東南アジア諸国など計13カ国を駆け足で訪れた。日米同盟の強化を軸に自由や民主主義などの価値観を広げる戦略を基本に据えるが、この「地球儀外交」には空白がある。

 5月中旬、都内のホテルでアーミテージ元米国務副長官らが集まる会合に顔を出した首相は、話が韓国に及ぶと「今は(関係修復は)ちょっと難しい。どういうタイミングがいいか考えている」と漏らした。昨年8月の李明博前大統領による竹島(島根県)上陸から日韓の政治レベルでの対話は滞りがちだ。

 3月に新しい指導体制に移行した中国との関係も展望は見えない。首脳との電話協議すらできず、昨年9月の尖閣諸島(沖縄県)の国有化以来、関係は冷え込んだままだ。首相周辺は「中国とは長期戦になる」と腹をくくる。

 成果が見えたのは日米関係だ。沖縄県の米軍普天間基地の移転手続きを進める一方、地元自治体にも配慮して嘉手納以南の米軍基地の返還計画をまとめた。2月の訪米では「日米同盟は完全に復活した」と宣言した。ロシア・中東などの歴訪ではエネルギー開発やインフラ輸出を促進し、成長戦略となる経済外交を展開した。





2013年6月19日水曜日


オバマ氏・習氏会談 

米中の風圧、日本揺らす(真相深層)
対北朝鮮の独自外交にも備え

                                                                 2013/6/15付 [有料会員限定]
米国と中国の関係が動けば、波は日本にも打ち寄せる。これが、経験則に裏づけられた日本の宿命だ。先週末、米カリフォルニアで8時間超におよんだ異例の米中首脳会談。日本への損得はどう出るのか。
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■尖閣問題で配慮

 オバマ米政権は米中首脳会談に際し、日本が疑心暗鬼にならないように神経を使った。
 日本を外して中国と取引することはない――。会談に先立ち、ホワイトハウス高官が来日し、日本側にこう伝えた。会談後に結果を説明するため、オバマ大統領が最初に電話した外国要人も安倍晋三首相だった。
 日本が注目しているのは、尖閣諸島について、オバマ大統領が正面から取りあげたことだ。
 「争いを過熱させるべきではない。行動ではなく、外交の対話に努めるべきだ」。オバマ氏は同盟国の日本とのきずなを強調したうえで、習近平国家主席にこう求めた。
 「当初、想像していたより、大統領は尖閣に時間を割いた。彼自身が強い問題意識を持っているからだろう」。米政府当局者はこう解説する。
 会談内容を知る日本政府筋も「習主席は『尖閣での日米の連携は強い』と感じたはず。中国への圧力になる」とみる。
 もっとも、日米に全く温度差がないわけではない。「米国はやや、腰が引けているのでは……」。実は、尖閣へのオバマ政権の姿勢について、日本政府内からはこんな声も聞かれる。
 日米は昨秋以降、離島防衛に向けた共同演習に力を入れだした。緊急時の協力を定めた日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の改定作業も始めた。いずれも中国軍をにらみ、日米の協力を強めるためだ。
 それなのに、米国は目的が「対中」にあることを公言するのは好まない。「中国を刺激するのは得策ではない。彼らを標的にするような言動は控えよう」。米国は水面下で日本にこうささやく。対中抑止は怠らないが、中国を挑発したくない。これが本音だ。
■「蚊帳の外」懸念

 こうしたなか、日本にとって痛しかゆしなのが、北朝鮮問題だ。米中首脳は北朝鮮の非核化で足並みをそろえた。「これを機に朝鮮半島の将来をめぐるディープな米中対話が、日本抜きで始まるかもしれない」。複数の日本の安全保障担当者はこう身構える。
 日本側がそんな気配を感じるようになったのは、習主席訪米を2カ月後に控えた4月だった。
 「中国の北朝鮮への態度は変わってきた。彼らとは協力できる余地がある」。4月に訪中し、習主席らと会談したケリー国務長官は日本に立ち寄ったとき、ひそかにこう打ち明けた。
 その約1週間後に訪中した米軍トップのデンプシー統合参謀本部議長も、「習近平氏は話が分かる。アプローチしやすいかもしれない」との感想をもらしたという。
 米中の協力が本当に深まるなら、北朝鮮のミサイルの射程内にある日本にとっても追い風だ。それで北朝鮮の暴走が止まるなら、日本の安全にもつながるからだ。
 ただ、良いことずくめではない。朝鮮半島をめぐる米中協議の「蚊帳の外」に置かれたら、日本は手探りで長期戦略を練らなければならなくなる。日本人拉致問題も置き去りになりかねない。
 「米中に連動し、やがて米朝対話も始まるだろう。日本も独自に北朝鮮に働きかける足場をつくらなければならない」。安倍首相の周辺はこう話す。飯島勲内閣官房参与の北朝鮮派遣にも、そんな思いがにじむ。
 1970年代初め、ニクソン米政権は電撃的に中国と和解し、日本を揺るがした。98年にはクリントン大統領が日本を素通りして訪中、日本パッシングと騒がれた。
 サイバー攻撃や海の安全保障で激しくぶつかる米中。そんな両国が簡単に近づくとは思えないが、こうした歴史の教訓からも目をそらせない。日本は浮足立つことなく、冷徹に米中協力の地金を見極め、次の一手を練るときだ。
(編集委員 秋田浩之)


 

                                                                           


 

 




 

 



 
 
 






2013年6月18日火曜日

日本株の保有比率、銀行・生損保は過去最低 12年度

2013/6/20 23:29
20日に東京証券取引所などが発表した2012年度の株式分布状況調査では、3月末時点の海外投資家の日本株の保有比率が過去最高を更新する一方、都銀や生損保の比率が過去最低となった。昨年秋の衆院解散表明以降、海外勢が株高をけん引するなかで、金融機関が株式売却を進めていた構図が鮮明となった。個人は5年連続で2割を超えた。
 12年度の金融機関の株式保有比率は1年前に比べて1.4ポイント低い28.0%となり、過去最低を更新した。保有減は4年連続。都銀・地銀や生・損保が政策保有株などを売却したほか、昨秋以降の株価上昇を受けて、年金などが保有資産に占める株式の保有割合を一定に保つために売却を進めた。

 個人の比率は0.2ポイント低い20.2%だった。「個人は株価の上昇局面で利益確定のために保有株を売却する傾向がある」(東証の情報サービス部)。投資主体別売買動向でも、個人は昨年8月以降、一貫して日本株を売り越しており、この傾向は5月まで続いている。

 半面、株高を背景に投資意欲は強く、個人ののべ株主数は4万8000人多い4596万人と2年ぶりに過去最高を更新した。日本航空などの新規上場も株主増に寄与した。

 一方、事業法人の保有比率は0.1ポイント高い21.7%と、小幅ながら2年連続で上昇した。株高に加え、株主配分を目的に上場企業が自社株買い を増やした結果、自社名義の株式保有金額は前の年度から2兆円強増え、約13兆円となった。

 13年度は来年1月から始まる少額投資非課税制度(日本版ISA=NISA)の口座開設予約が好調で個人の保有増に期待がかかる。

 年金の動向にも関心が高い。公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人 (GPIF)は今月7日、国内株式の保有割合を見直し、従来よりも1ポイント高い12%に引き上げた。昨秋以降の株高で「買い増す余地は少ないが、売り圧力は緩和される」と野村証券の柚木純ストラテジストはみる。信託銀行でも年金運用における国内株式の保有を引き上げる動きもあり、国内勢の保有減に歯止めがかかるかが注目される。

2013年6月17日月曜日

原発規制、ようやく先進国並みに 

原発規制、ようやく先進国並みに 規制委が新基準
                                                       2013/6/19 12:30

 原子力規制委員会が19日に決めた原子力発電所の新しい規制基準は、旧基準では想定していなかった炉心溶融などの過酷事故に対する備えを義務付けた。日本の原発の安全基準もようやく他の先進国の水準に追いつく。

 過酷事故は巨大な自然災害やテロなどで原子炉が暴走するような深刻な事態。これまで対策は電力会社の自主的な取り組みに委ねられていた。日本の原発は完全な安全対策がとられており、過酷事故は起こり得ないことになっていたからだ。

 だが東京電力福島第1原発は津波で電源が失われる想定外の事態に陥り、放射性物質をまき散らす過酷事故に至った。これを教訓に、新基準は「過酷事故も起きうる」ことを前提として様々な安全対策導入を求めた。

 例えば全電源が失われても原子炉を冷やせる注水車の確保、格納容器の圧力が異常に高まったときに放射性物質をこしとりながら空気を抜くフィルター付きベント(排気)装置、移動式の電源車などだ。国際原子力機関(IAEA)はこうした対策を各国に求めており、過酷事故対策は世界の主流になりつつあったが、日本の規制当局は福島事故まで動かなかった。

 電力各社は新基準のもとで原発の改修や安全設備の増設を進めている。日本の原発の安全性能はハード面では世界最高水準に引き上げられる。ただ新基準は機器を運用する人間の行動までは定められない。廃炉工程が進む福島第1原発では作業ミスに伴う停電や汚染水漏れが頻発している。茨城県東海村の加速器実験施設「J―PARC」では5月、事故で施設内にたまった放射性物質を3日間にわたりそのまま外に放出し続けていた。原子力を扱うすべての関係者の行動や意識改革が今後の課題となる。
 
 

2013年6月11日火曜日

アベノミクスの迷い 政治アカデメイア

踊り場アベノミクスの迷い映す「神学論争」
 首相の安倍晋三が「秋に成長戦略第2弾に取り組む。思い切った投資減税を決める」と言い始めた。検討中の成長戦略は14日に閣議決定の運び。それを待たずに自ら踏み込み不足を認めたに等しい。そんなちぐはぐの底流には踊り場のアベノミクスの迷いを映す「神学論争」がある。

■「政労使協議の場」の裏にある麻生VS茂木

 「企業の設備投資が増えても、働き手の賃金はなかなか上がらない。ここは政労使でよく話し合わないとうまくいかない」

 6日の経済財政諮問会議。副総理・財務相の麻生太郎は政権発足時からの持論を繰り返した。これに民間議員の一人が「雇用改革も含め、政労使でざっくばらんな議論ができる場を政治の指導力でつくってほしい」と歩調を合わせると、経済財政・再生相の甘利明が「首相と相談して枠組みを考える」と応じた。



6日の経済財政諮問会議では政労使で雇用改革を議論する枠組み作りが話し合われた(首相官邸)
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6日の経済財政諮問会議では政労使で雇用改革を議論する枠組み作りが話し合われた(首相官邸)

 賃上げや雇用改革を巡る政労使の3者協議は、この日固まった経済財政運営の基本方針「骨太方針」素案も触れている。5日に産業競争力会議がまとめた成長戦略の素案も、3者による「包括的な課題解決に向けた共通認識を得る場」の新設を明記した。もう既定路線なのに、麻生はダメ押しとばかりこだわって見せた。背景にあるのが経済産業相の茂木敏充との論争だ。

 茂木 「設備投資を3年間でリーマン・ショック前の水準である70兆円以上に戻すため、既存の税制の拡充に加え次元の異なる支援策を講じる。思い切った税制措置・金融措置で、過剰供給構造にある業界の再編も迫る」

 麻生 「企業がリスクを取る意欲が減少している現状で、投資減税したら本当に投資をするのか。合併も誰かに言われたからではなく、生き残るために起きるものだ。政策減税の深掘りだけで企業が動くのか疑問だ」

 論争に火が付いたのは5月22日の競争力会議だ。茂木が打ち出したのは「企業の過少投資」「政府の過剰規制」「業界内の過当競争」の3つの是正を目指す「産業競争力強化法案」の策定である。規制改革に加え、設備投資や事業再編を促す税制措置、公的融資などの政策手段を5年間で集中投入するという。
茂木は成長分野への設備投資の爆発的増加を起点にして「企業収益が増え、個人所得も増えて消費の拡大につながり、また民間投資につながる好循環をつくりたい」と訴える。「異次元」を口にするが、内実は経済産業省が通産省時代からしばしば立案してきた伝統的な経済の供給サイド活性化の思想といえる。
■設備投資と賃上げ、起点はどちら

 これに真っ向から疑念をぶつけたのが麻生だ。「国内総生産(GDP)の6割は消費だ。民間投資の拡大と賃金の向上が両方来ないと消費は拡大しない」と需要サイドにも目を向ける。5月28日の諮問会議でも、消費を活気づける賃上げなしにはデフレ脱却もおぼつかない、と経営者の決断を求めた。内部留保をため込んだままなら「損をする」ような税制措置までほのめかした。

 「政策で民間企業にインセンティブをつければ、自然に生産性が上がり、雇用や所得の増加による好循環が動くのか。そうはならない。そうしなければ損をするような形にしないとダメではないか。企業の決断が必要だ。物価だけ上がり、賃金が上がらないと大変なことになる」

 元経営者の麻生には、雇用は守っても賃金は上げず、コスト削減で内部留保を増やして設備投資は控える企業の行動がデフレ下では合理的とも映る。流れを変えたいが、至難の業だと直感する。財務省にも「成長戦略にも真に異次元の発想が必要ではないのか」と「賃上げ→消費活性化→企業収益の向上→投資拡大」と賃上げを起点に逆回りの好循環を説く論者さえいる。

 甘利が麻生の主張に耳を傾け、1980年代のオランダのワッセナー合意をモデルに政労使の3者協議に取り組む。使用者側が賃上げに動く代わりに、労働側は雇用の流動化を容認する。政府は賃上げする企業への優遇措置や雇用規制改革で政策的に後押しする。これらをパッケージで議論し、政府が間に入ることで打開を目指す。諮問会議に専門調査会を設置する方向だ。










アベノミクス官邸会議が決めた主な施策
◎骨太方針=経済財政諮問会議
・ プライマリーバランスの赤字を15年度までに半減、20年度までに黒字化
・ その後の債務残高GDP比の安定的な引き下げ
・ 社会保障支出も聖域とはせず、見直し
◎成長戦略=産業競争力会議
・ 中長期的に2%以上の労働生産性の向上
・ 10年間の平均で名目3%程度、実質2%程度のGDP成長
   (10年後に1人当たり名目国民総所得(GNI)が150 万円以上拡大)
・ 政労使の「包括的な課題解決」に向けた3者協議を新設
・ 規制改革の突破口として、首相主導の「国家戦略特区」を創設
・ 設備投資や事業再編を促す「産業競争力強化法案」を立案
・ 17年度末までに40万人分の保育の受け皿を用意し、待機児童を解消
・ 環太平洋経済連携協定(TPP)、日中韓自由貿易協定(FTA)などの交渉促進
・ 公的年金などが保有する金融資産(公的・準公的資金)の運用方法の再検討
◎規制改革に関する答申=規制改革会議
・ 医薬品のインターネット販売の原則解禁
・ 認可保育所への株式会社、NPO法人の参入促進
・ 職務や勤務地などを限定した正社員の雇用ルールを14年度に整備
・ 労働者派遣制度を年内にも抜本見直し


アベノミクスのミッシングリンク(失われた輪)は設備投資か賃上げか。必要条件と十分条件の関係とも見えるが、麻生・茂木論争をもう一皮むけば、安倍内閣の権力構造の深奥での暗闘も浮かび上がる。経産官僚主導で進む政策決定に、財務官僚が懐疑的な目を向ける構図だ。
■経産省VS財務省の写し絵

 安倍の秘書官には政務担当の今井尚哉(昭和57年入省)、柳瀬唯夫(59年)と経産官僚が2人いる異例の布陣だ。元経産相の甘利が責任者だった自民党の衆院選公約に沿い、政策決定の司令塔として内閣に日本経済再生本部を新設し、競争力会議を置いたところから経産省色は鮮明だった。甘利は経産省製造産業局長の菅原郁郎(56年)に成長戦略を仕切らせている。

 財務省は民主党政権が休眠させた経済財政諮問会議の復活に動いて「マクロ政策は諮問会議、ミクロ政策は競争力会議」とすみ分けを試みた。税制問題は、両者のはざまで腰を据えた議論が進んでこなかった。麻生の茂木批判には、2013年度から設備投資や研究開発を促す法人税の軽減措置を拡充したばかりで、さらなるつまみ食いの減税要求をけん制する意図もにじんだ。

 参院選を控えて市場の期待をつなぎ留めたい安倍は、なりふり構わず年末の税制改正前倒しを口にする。従来型の成長戦略に疑念を隠せない財務省も異次元の金融緩和で乱高下しがちな長期金利に気が気でない。14年4月の消費税率引き上げ問題を抱え、アベノミクスをどう下支えするか、傍観者ではありえない。不協和音を抱えながら政権の「総力戦」は続く。=敬称略