2012年3月31日土曜日

米企業マネーが演出する「カネ余り」相場  2012/3/31

世界のマネーが国債から株式へと移動を始め、
主要な株価指数は冬ごもりから抜け出そうとしている。
日経平均株価は27日に東日本大震災後の高値を更新し、
米ダウ工業株30種平均は2007年10月に付けた
最高値が視野に入ってきた。
各国中央銀行の金融緩和を引き金にした
「金融相場」「カネ余り」相場と言われるが、
よくみると米国の企業マネーが演出役になっていることが分かる。

 ■金融相場は景気回復初期に起きやすい
「米企業の空前の利潤率の高さが株価に割安感を生んだ。
それと同時に、
企業は膨らんだ内部留保で自社株買いを積極化し、
株価を押し上げている。
それが現在の株式相場の実体だ」。
著名ストラテジストの武者陵司氏はこう解説する。
金融相場は通常、
景気が停滞期から回復に向かう初期段階に起きやすい。
低金利を背景に、
株式の相対的な投資魅力が高まって資金が流入、
活況になる状態をいう。
「過剰流動性相場」「需給相場」ともいう。
東証のホームページの説明では、
企業が不況に伴う設備投資抑制で生じた余剰資金を
株式投資にまわすことで市場が活性化する局面を指すとある。
預金や債券投資で財テクするより、
自社株買いをした方が得という理屈だ。

 ■株高でも米企業の時価総額は減少
米企業の実態を見てみよう。
世界取引所連盟(WFE)のデータによれば、
米国の時価総額(ニューヨーク証券取引所とナスダックの合計)は
昨年12月末時点で15兆6400億ドル(約1290兆円)。
2008年秋のリーマン・ショック後のピークである
昨年3月末時点(18兆9000億ドル)と比べ、17%も減少した。
直近では17兆ドル台まで増えた可能性はあるが、
S&P500種株価指数が昨年3月末から直近までに
6%あまり上昇したにもかかわらず、
時価総額が1年前の水準を下回るのはなぜか。
ファイザー100億ドル、IBM70億ドル、
ニューズ・コーポレーション50億ドル……。
2兆ドルを超え、過去最高水準に膨らんだ手元資金を武器に
米企業が自社株買いを活発化していることが大きい。
米アップルも17年ぶりに配当を実施し、併せて自社株買いに踏み切る。
米企業の自社株買いをきっかけに、
リスクを取りやすくなったグローバル投資家が米株投資に動く。
米株の上昇がマネーの投資対象の裾野を広げ、
世界同時株高の色彩を帯びる――。
こうした好循環が、最近の株高の背景にある。
米国の名目国内総生産(GDP)に対する米国株の時価総額の比率は、
昨年末時点で1倍そこそこ。
S&P500が最高値を付ける直前の2007年9月末時点の1.4倍強を大きく下回り、
「バブル」と言えるような過熱感はまだうかがえない。
金融相場の次に、好況時の「業績相場」が訪れ、
金融引き締めに伴う「逆金融相場」を経て、不況時の「逆業績相場」に至る。
これが従来の相場循環論だ。
しかし、こうした常識はもはや崩れた。
米国で今、起きている現象は、金融相場と業績相場の2つの性格を併せ持つ。

 ■日本企業もカネ余り状態だが…

日本はどうか。
名目GDPに対する東証の時価総額の比率は昨年末時点で5割強。
07年9月以降の平均値(7割)を大きく下回り、この間で最低だ。
直近でこの数字は、約6割まで上昇した可能性があるが、
机上の計算では、なお平均値には届かない。
米国に比べはるかに低い水準にある。

日本株を買う投資家の多くはまだ、
出遅れ感をよりどころとし、
その日の日本株の動きは、
前日の米株の動き次第という「米国依存」から抜け出せていない。

日銀の資金循環統計によれば、
日本企業が保有する現金と預金は、
昨年末時点で205兆円と前年末比4.6%増加し、
年末ベースでは過去最高を記録。
日本も企業は空前の「カネ余り」状態と言える。

1株利益を「濃縮化」する自社株買い。
経営者にとってストックオプションの報酬が大きい米国と
日本は企業風土も異なるが、
企業の余剰資金の使い方次第では、
日本株の上値余地も広がりそうだ。

〔日経QUICKニュース 編集委員 永井洋一〕

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