2012年11月7日水曜日

オバマ氏再選、4年前の「熱狂」遠く ハーレムを歩く

 ニューヨーク市中心部マンハッタン北部にある黒人居住区のハーレム。米大統領選が投開票された6日夜、同地区の目抜き通りの広場にいると、1人の黒人男性が近寄ってきた。重いリヤカーを引き、いかにも疲れた表情を浮かべ、「誰もいないんじゃ、商売なんてできやしない」と吐き捨てた。「4年前はそれはすごい人だったんだ。今年も期待して来たら、裏切られた」と続ける。



4年前と様変わりし、広場では特設ステージが消えていた
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4年前と様変わりし、広場では特設ステージが消えていた

 オバマ氏が初の黒人大統領になった4年前の11月。この広場には数千人の群衆が集まった。黒人だけではない。ラティーノと呼ばれる中南米の移民や、欧州の観光客などあらゆる人々が姿を見せた。「オバマを大統領に!」。それぞれの言語で手書きされた色とりどりの横断幕。地元の黒人たちが持参した打楽器のジャンベ。特設ステージに設置された巨大スクリーンで早々と「オバマ当選」が伝わると群衆の興奮は絶頂に達し、道路では車が派手にクラクションを鳴らした。

 貧しい人はオバマ氏に日々の暮らしをよくしてくれるように願い、外国人は単独主義に走ったブッシュ政権から脱し、米国が国際協調に回帰することを願った。記者も4年前、たまたま現場を取材する機会に恵まれた。人種や世代の垣根を越えて人々が熱狂する姿に、新たな時代の到来を感じずにはいられなかった。

 そして4年後。再び訪れた広場では特設ステージが消えていた。寒さもあってか、地下鉄の駅を出ると足早に家路を急ぐ人々。4年前の熱狂が遠い夢だったかのように、広場は静寂に包まれていた。

 「これを買っていかないか」。重いリヤカーを引いていたチャーリーと名のる行商人は、黒いカバンからTシャツを1枚取り出した。オバマ氏の顔がプリントされ、「チェンジ(変革)」の文字が躍る。よく見てみると「2008年」とある。「12年のバージョンはないの」と聞くと、あっさり「そんなものはない」との答え。

 別れ際、「ちまたではこんな歌が流行しているんだ」とメロディーに乗せて歌い出した。「Please give him a second chance. This time he will do better(どうか彼に2度目のチャンスをくれてやってくれないか。今回はうまくやるはずだから)」。

 オバマ氏が09年1月に米大統領に就任してから4年弱。金融危機で負った傷が深かったとはいえ、米景気の回復ペースは鈍く、米国民が当初抱いた期待には届かなかった。足元で米住宅市場には回復の兆しが見えるものの、失業率は今なお8%近い水準にある。長期失業者も社会問題化し、所得水準が下がるほど明るい未来は描きにくい。



選挙結果を固唾をのんで見守る人々(ハーレム地区の公共ホール)
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選挙結果を固唾をのんで見守る人々(ハーレム地区の公共ホール)

 広場から1キロメートルほど離れたハーレムの公共ホールでは、大統領選の結果を速報するイベントが開かれていた。参加者のほぼすべてがオバマ氏の支持者。選挙人の獲得数が増えるたびに、歓声や拍手がわき起こる。だが定員400人程度の会場を見渡せば、ちらほらと空席も。会社員のゼイン・スタックハウスさん(40)は「同じ黒人としてオバマ氏を応援したが、2期目のオバマ氏に過度な期待をしているわけではない」と語る。医療保険の充実などのオバマ氏の政策は支持しつつも、力強い米経済の復活は見込めないだろうとあきらめ顔だ。

 今回の大統領選直前の世論調査でオバマ氏への黒人の支持率は91%。前回選挙の黒人のオバマ氏への投票率(96%)と比べ、圧倒的な差があるわけではない。ただ「オバマ氏が米国を変える」という夢を抱いた4年前との温度差は否定しがたい。

 「米景気の浮揚と教育水準の向上、この2点に集中してほしい」。そう語る黒人の書店員、アルフォンソ・ダリスさん(40)は、オバマ氏再選にホッと胸をなで下ろした。「中低所得者に冷淡」なロムニー氏が大統領になることだけは避けたいシナリオだったからだ。

 オバマ氏再選を前向きに受け止めつつも、熱狂からは遠く離れた人々。ハーレムを歩いて見えてきたのは、米国民が抱く「出口の見えない閉塞感」だった。

(ニューヨーク=川上穣)

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