2012年12月18日火曜日

小選挙区は民意を反映できない 日本の弊害だ

選挙制度に負けた「分裂・民主」と「乱立・第三極」

                                                               日経新聞       2012/12/18 7:00

 衆院選の隠れた本質ははっきりした特徴を持つ選挙制度と、無手勝流の政党や政治家たちのせめぎ合いだった。定数1の小選挙区主体で二者択一型の政権選択ゲーム。そこで逆風下の民主党の分裂や第三極の乱立は合理的な動きとは言いづらかった。戦後最低の投票率で組織票の重みも増し、制度が秘める人為的な多数派形成力が自民党の議席数を一気に押し上げた。

自民に勝者の弁無し

 「今回は熱気を全く感じなかった。民主党政権の3年3カ月に皆がダメ出しをした。自民党には敵失で票が入ったので、いい気になっている者はいない。我々は最初から小選挙区の戦いに全力を挙げた。比例代表は12も13も政党の選択肢が増えれば、票がバラけるのは当然だ」

 自民党大勝にも、2009年の前回衆院選で政権を失った元首相の麻生太郎の分析に勝者の弁はない。青年局長の小泉進次郎も「そよ風も感じない無風だった。民主党がひどすぎ、新党が新党に見えなかっただけ。有権者が自民党を評価した結果ではない」と自戒する点は共通する。

 衆院選は過半数を得た勢力が首相を選び、政権を獲得するゲームだ。当選者が1人で、地滑り的に多数派を創り出しやすい300小選挙区が主体。政党名で投票し、得票率に応じて議席を配分する定数180の比例代表で補う。選挙協力も含め、過半数を目指して全国の小選挙区に候補者を立てる政党・勢力が政権を競う。主に比例で議席を狙う中小政党は政権選択のらち外に置かれざるを得ない。

 フランスの政治学者が唱えた「デュべルジェの法則」によれば、小選挙区制は二大政党制、比例代表は多党化をもたらす。1996年に衆院選が今の仕組みになると、万年与党の自民党に小選挙区で対抗するため野党再編が進み、民主党が台頭。300選挙区の大半で両党が対決し、有権者がどちらかに4年任期を託す政権選択選挙の外形が整った。中小政党も法則通りに比例で生き残っている。

「不都合な新党」分かっていた小沢氏

 政党を選ぶ基準は体系的な政策マニフェスト(政権公約)、首相候補となる党首の個性と政権枠組みの選択肢だ。自民党は公明党と小選挙区で候補者の競合を避けて綿密な選挙協力をし、連立を組む方針も明示した。民主党も連立パートナーだった国民新党との協力を継続した。

 この選挙制度というゲームのルールに敗北した第1のプレーヤーは民主党だ。消費増税法案に反対した小沢一郎グループが集団脱党し、その後も離党者が相次いだ。自公が着々と選挙準備を整えたのに、これと対峙すべき民主党の分裂。政権与党にもかかわらず、党内抗争が臨界点を超えた結果で、世論の逆風をますます強めただけだった。

 小沢は小選挙区制導入の旗を振り、二大政党制論者だった。政界再編の曲折を経て行き着き、政権交代も果たした民主党を離れ、新党を構える――選挙制度の力学から、この行動が理にかなっていないことは知り抜く。それでも党内政局で追い込まれ、飛び出さざるを得なかったのは誤算だった。代表に嘉田由紀子を担いだ日本未来の党は「小沢新党」と受け止められがちだ。中小政党結集を狙った「日本版オリーブの木」構想も空振りだった

 民主党の分裂後遺症も深かった。どうにか過半数の264小選挙区で候補者を立てたが、空白区続出で二大政党の看板が傾いた。首相の野田佳彦は自民党総裁の安倍晋三との「首相候補の対決」に活路を探ったが、逆風で衆院選の目標を「比較第1党になることが何より大事だ」としか言えなかった。過半数を目指すべき政権枠組みも国民新党との連携だけでは怪しかった。
 ゲームのルールの第2の敗者は第三極だ。日本維新の会、みんなの党、未来のどこも過半数の候補者を立てられなかった。石原慎太郎は太陽の党を結党してすぐ「小異を捨てて大同団結すべきだ」と維新に合流。小選挙区ではまとまらないと大政党に勝てないという危機感が突き動かしたが、そこまでだった。

 当初は過半数擁立を掲げた維新代表代行の橋下徹も「選挙前に新政権の枠組みなど示せるわけがない」と転換した。目指す政権枠組みや過半数獲得の道筋、首相候補をどの党も示せず、選挙後は野党貫徹か与党志向かも曖昧なままだった。小選挙区主体で有権者が直接、政権を選ぶゲームのルールを脇に置いた。互いに候補者を立てて競合した選挙区は86に上った。「第三極」という政権の選択肢は存在しなかった。

「自民党が漁夫の利」と岡田氏

 自公協力を横目に、民主党と第三極各党がつぶし合った選挙区は206。副総理の岡田克也は「反自民票が分裂し、自民党が漁夫の利を得ている」とうめいた。維新の橋下も前半は「卒原発」を掲げた未来を徹底攻撃。後半は自民党批判に急転したが、手遅れだった。二大政党陣営のどちらにも過半数を取らせない「消極的選択」を有権者に訴える戦略は、比例では躍進をもたらしたが、政権を争う小選挙区では限界を露呈した。

 「自民党は『国家をどうするか』から話を始めるが、民主党は『社会を強くすることを通じて国も強くする』と訴えた。ただ、これだけ厳しい選挙結果になったのは、民主党が何のために存在しているのか、党のあり方そのものが問われている」

 民主党で新代表候補にも挙がる政調会長の細野豪志はなお自民党との対立軸を語る。二大政党の一角の自負は捨てないが、惨敗で党再建は暗中模索だ。第3党になった維新は代表の石原と橋下の路線や政策のズレが目立つ。橋下は「みんなの党や民主党の一部の考え方が合う人たちと政権政党に対抗できるグループをつくりたい」と新たな野党再編の意欲も口にし始めた。選挙制度を変えない限り、野党に再編の力学が働くのは確かだ。

 「政治的な選択というものは必ずしも一番よいもの、いわゆるベストの選択ではありません。それはせいぜいベターなものの選択であり、あるいは福沢諭吉の言っている言葉ですが『悪さ加減の選択』なのです」(丸山真男「政治的判断」1958年)

 「勝者なき衆院選」が終わり、自公連立政権が復活する。この政権選択ゲームを今後も続けるか否か。残る衆参ねじれをどう乗り越えるかも合わせ、敗者たちがカギを握っている。


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