2013年1月19日土曜日

円安による 米欧 他 各国の思惑苦情

アベノミクス、米欧で波紋 自動車ビッグ3が円安批判
「円は過大評価」と擁護論も

                                                              日本経済新聞  2013/1/19 8:07


 積極的な金融緩和を通じ円高是正とデフレ脱却をめざす安倍晋三政権の経済政策が、
米欧などで波紋を広げ始めた。
 国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事が「競争的な通貨切り下げには反対」とけん制。
米自動車大手3社(ビッグ3)は
「日本が円安を通じた近隣困窮政策をとろうとしている」とオバマ政権に対応を求めた。
一方、「金融危機後、円は過大評価されてきた」とする識者も多く、反応は一様ではない。
 ビッグ3でつくる米自動車貿易政策評議会(AAPC)のブラント会長は17日、
「政権に戻った自民党が、
円安による日本経済の成長で他の貿易相手国を犠牲にしようとしている」と声明で批判。
「この政策が受け入れられないことをオバマ政権は日本に対し明確にすべきだ」と強調した。

 円安により日本車がドル建てなどで安くなり、
米国メーカーに対して優位に立つとの危惧が背景だ。
東日本大震災後の復活が著しい日本メーカーを通貨問題をテコにけん制する狙いと見られ、
AAPCは議会工作などに乗り出す可能性がある。

 米国は米連邦準備理事会(FRB)の量的緩和策が「ドル安を狙っている」
とブラジルなどから批判されてきた。
 表だって日本を批判しにくい面はあるが、円安加速で米産業界に反発が広がれば、
事情は変わる。
米国は中国に為替管理をやめるよう求めてきたが、
日本の政策次第では中国に為替管理を続ける口実を与えてしまう面もある。

 
 ラガルド専務理事も、
日銀が新たな物価上昇率目標を設けて金融政策を緩和する案には
「興味深く良い計画」とする一方、
名指しを避けつつ「競争的な通貨切り下げには断固反対するのがIMFの原則」とくぎをさした。
 
 安倍政権の経済政策については、
円安による輸出競争力の強化を狙っているとの見方から、
輸出品が競合する韓国なども警戒。
 欧州でも、ユーロ圏財務相会合の議長のユンケル・ルクセンブルク首相が
「ユーロは危険なほど割高」と発言。
ロシア中央銀行幹部も16日、「日本は円を下落させており、
他国も追随しかねない」と警戒感を示した。
 もっとも、日本の円安是正を擁護する声も専門家の間にはある。
 アダム・ポーゼン米ピーターソン国際経済研究所所長(前・英中央銀行政策委員)は
16日付の英フィナンシャル・タイムズ誌に寄稿。
この中で「日本の本当の問題は、デフレと通貨(円)の過大評価だ」と指摘。
弊害が伴う財政刺激策でなく、積極的な金融政策で対応すべきだと訴えた。
同氏は日本経済新聞のインタビューでも
「これまで日本は通貨戦争の犠牲者だった」とも語っている。
 

 足元で景気の先行き不安が薄らぎ、
世界的な資金の流れが変化している点も見逃せない。
 投資家がリスクを取り始めた結果、
これまで代表的な「逃避先」だった円が売られ、
ユーロや韓国ウォンなどが買われている面がある。
 ただ、為替レートは各国の国益が絡むゼロサム・ゲームだけに、
こうした見方を各国が受け入れるかは微妙。
 それゆえ、米国を含む各国当局は通貨安につながる金融緩和を進める一方、
「通貨安をめざす」などの発言は避け、各国の反発をかわしてきた。
円安・株高に沸く日本政府要人が「円安をめざす」などの露骨な発言を続ければ、
各国の思わぬ反発をまねく懸念がある。
 

円、次の照準は「浜田参与ライン」 まずは95円
                                   2013/1/18 18:02

 自民党の石破茂幹事長が望ましい水準とした1ドル=85~90円の「石破レンジ」を下抜け、2年7カ月ぶりに90円台に下落した円相場。野田佳彦前首相が衆院解散を表明した昨年11月中旬から続いた円高修正の流れはひとつの節目を抜けたが、外国為替市場は満足することなく、18日の東京市場でも円は下値を探った。午後に政府関係者から一段の円高修正を容認する発言が出ると、飛びつくように円売り・ドル買いが広がった。

「1ドルが95~100円であれば心配ない」。安倍晋三首相のブレーンが講演で語った
「1ドルが95~100円であれば心配ない」。安倍晋三首相のブレーンが講演で語った
 「95~100円なら何も心配ない」「110円なら問題」。デフレ脱却と円高是正を最優先課題に掲げる安倍晋三内閣の内閣官房参与である浜田宏一エール大名誉教授の講演内容が伝わると、89円台後半に下げ渋っていた円は再び売りの勢いを増し、前日の海外市場で付けた安値をあっさり下回った。
 「2日前あたりから、急にHamadaの名前が海外勢の話題になっていた」。ある外国銀行の為替担当者はこう明かす。積極緩和派である浜田氏が追加緩和に消極的な教え子の白川氏にしびれを切らして政府の「黒幕」になろうとしている――。市場ではこんな臆測まで飛び交ったという。
 浜田氏の発言に関心が集まりやすかった背景には、閣僚が円相場についてのコメントを一斉に避け始めた時期に重なった面もある。「為替に関することは一元的に財務相に聞いてほしい」。甘利明経済財政・再生相は18日午前の閣議後の記者会見で言葉少なに語った。話を振られた形の麻生太郎副総理・財務・金融相も「コメントすることはしない」と口をつぐんだ。市場では「相場への影響が大きいため、かん口令が敷かれたのでは」との見方が多い。
 前日の海外市場では、甘利経財相が足元の相場の動きについて「まだまだ修正局面にある」との認識を示したダウ・ジョーンズ通信のインタビューが話題になった。東京市場で伝わった瞬間こそ円を40銭程度押し下げるにとどまったが、欧州市場に取引の中心が移ると「海外勢が異様なほど注目した」(邦銀)。経財相が先に示唆した「100円は過度な円安」との警戒が解け、持ち高を一気に円売り・ドル買いに傾けたという。
 円が政府・自民党が示唆していた警戒水準に差し掛かったタイミングで、降って湧いたように登場した「浜田ライン」。クレディ・アグリコル銀行の斎藤裕司外国為替部ディレクターは「これで次は1ドル=95円が照準になる」と指摘する。「政府関係者」の発言に相場が揺さぶられる日はまだ終わりそうにない。
 

「アベノミクス」影響注視 中韓など警戒強める
                         2013/1/16 0:57 (2013/1/16 3:30更新)

大胆な金融緩和や財政出動を柱とする安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」を巡り、日本経済復活への期待が高まる一方で、円安による輸出競争の激化や余剰マネーの流入を危惧する声が中韓などの周辺国で上がり始めた。日本経済や経済・金融政策は長引く景気低迷で関心が薄れていたが、円安株高の進行で世界中の投資家や識者の目が久しぶりに日本に向いている。
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 韓国の聯合ニュースは一連の金融・財政政策について、大胆な金融緩和により「円安が加速するとみられる。韓国では財閥系企業の業績悪化懸念が広がっている。韓国の輸出企業や証券市場にも持続的な衝撃が避けられない」と報じた。
 韓国は日本と自動車や造船、鉄鋼の輸出で競合しており、円・ウォン相場が収益を大きく左右する。こうした構造を受けて円安・ウォン高が進めば日本企業の収益性が高まり、日経平均株価が上昇するが、韓国では業績悪化から株価の下押し圧力が強まる。
 韓国銀行(中央銀行)の金仲秀(キム・ジュンス)総裁は14日の記者会見で円安とウォン高の同時進行を警戒し「必要なときには(為替相場の急激な変動を緩和する)スムージングオペレーションなどにより積極的に対応する」との認識を示した。為替市場に介入する姿勢を明確にした。
 中国も日本の金融緩和策に神経をとがらせている。人民元相場の上昇圧力が増し、中国の輸出産業にとって一段の減速要因になりかねないためだ。また、3兆ドルを超える外貨準備に占める円資産を徐々に増やしており、円安になれば人民元建てでの円資産の価値が目減りしてしまう。
 余剰マネーの流入による、バブル懸念も浮上している。米欧に続き、日本も大胆な金融緩和に踏み切ることで、低金利の円を借りて高金利通貨などに投資する「円キャリートレード」が活発化するためだ。
 あふれたマネーが香港などを通じて中国国内の不動産市場に流れ込むことで、不動産価格の一段の上昇を招き、成長の足取りが不安定な経済を混乱させかねない。新興国の通貨高や資源価格の上昇といった景気のリスク要因が増す可能性もある。そんな「通貨安戦争」を中国は警戒している。
 アベノミクスにはまだ期待先行の部分が大きいのも事実。シンガポール経済紙ビジネスタイムズは年初に掲載した東京発の解説記事で「アベノミクスは日本の抱える根本的な問題を解決するわけではない」と論評した。
 「日本経済をめぐる最大のニュースは昨年に過去最大の21万人も人口が減少した事実だ」と指摘。労働人口の減少を補うために「移民受け入れの是非が議論になるべきなのに先の総選挙では与野党ともに素通りした」。アベノミクスで景気が一時的に盛り上がったとしても「日本の若者が子供を産む気になるとはとても思えない」と皮肉っている。
 世界第3位の経済規模を誇りながら、日本の経済や金融を巡る話題は長らく世界の関心事とは言い切れない状況が続いてきた。「ゾンビ(死に体)企業の退場、農業補助金の削減、移民受け入れの拡大」(ニューヨーク・タイムズ紙社説)といった抜本的な構造改革を通じて需要の拡大に取り組めるかに世界の関心が集まる。
 

株高、真の主役は円安にあらず
大阪経済部・須野原礼展

                              2013/1/18 20:01
18日の東京株式市場では日経平均株価 が高値引けとなり、昨年来高値を更新した。株価を押し上げた材料は1ドル=90円台に下落した円相場。16日には自民党の石破茂幹事長の発言で円高・株安になった直後だけに、円高修正の継続に胸をなで下ろす市場関係者も多かった。野田佳彦前首相の衆院解散表明後は円安と株高が同時進行し、「市場を意識した発言が安倍晋三首相に目立つ」(東海東京調査センターの隅谷俊夫投資調査部長)のをみれば、安倍政権への期待→円高修正→株高の流れができているとみるのは不自然ではない。
「今は為替がセンチメントを決める為替連動相場」(国内投信の運用責任者)だとすれば、しばらくは為替動向を注視する展開が続くことになる。株式市場参加者は為替相場と為替に関する内外の要人発言に一喜一憂しそうな雲行きだ。だが、株価上昇の背景に円安に負けず劣らず重要な要因があるとすれば、投資家の迷いも緩和されるのではないか。
JPモルガン証券の北野一チーフストラテジスト が「相場のことは相場に聞け」と題し、興味深い分析をしている。最近の物色動向と似た過去の局面を探すために、東証33業種の業種別株価指数の月間騰落率(3カ月前比)を算出し、騰落率の相関係数を計算。足元の局面と相関の高い時期をあぶり出した。
それによると、2000年以降で最近の相場付きと似ている過去の株高局面は03年6月、09年6月、12年2月の3回。このうち03年と09年は円高・ドル安トレンドの真っ最中にあり、今のような円安局面ではなかった。北野氏は「円高修正は直近の株高の本質的な要因ではない」とみる
では「相場に聞いた」答えは何か。北野氏によれば、直近を含む4回の局面に共通していたのは米国の在庫調整の終了だ。出荷の前年同月比(%)から在庫の前年同月比(同)を引いて算出した米国の出荷・在庫バランスを見ると、過去3回の類似時期はいずれも米国の出荷・在庫バランスが底入れ した局面にあたり、直近でもその兆候がみられる。北野氏は「円安と日本株高は(米国の)景気回復という同じ材料を手掛かりにした現象にすぎない」と言い切る。

SMBC日興証券の牧野潤一チーフエコノミストも「直近の日本株高と円安は、ともに米景気の回復を先取りした動き」とみる。実際、17日に米商務省が発表した昨年12月の住宅着工件数は4年半ぶりの高水準だった。米国の住宅市場が回復すれば「資産効果 で消費が上向き、輸出関連株には追い風」(牧野氏)という理屈だ。
米住宅市場を巡ってはサブプライム 問題をきっかけに08年のリーマン・ショックが発生し、世界の投資家をリスク回避型の投資に向かわせた。これが回復するとなれば、投資家のリスク許容度が増し、消去法的に買われてきた円は売られ、リスク資産である株は買われるはず。いちよしアセットマネジメント の秋野充成執行役員は「過去の傾向から類推すると、日経平均のPBR(株価純資産倍率 )は1.28倍程度が適正値」とし、「過度のリスク回避から『過度』がとれるだけでも、日経平均は1万2500円程度まで上昇する余地がある」と話す。
今のところ株高は為替動向に加え、旺盛な外国人投資家の買いなどの需給要因で説明されることが多い。日本の輸出動向に影響が大きい「米景気の持ち直し」というファンダメンタルズ要因が後押ししているとすれば、仮に円相場が要人発言で一時的に神経質な展開となったとしても、株式相場は中期的に堅調な地合いが続くとみてよいのではないか。
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