2013年1月31日木曜日

日銀の重苦しい朝

守るのは組織 日銀の重苦しい朝(ルポ迫真) 
                                             日本経済新聞  2013/2/1 3:30

昨年12月17日。日銀は重苦しい朝を迎えた。前日の衆院選で安倍晋三(58)が率いる自民党が圧勝。最初に異変に気付いたのは中堅以下の職員だった。
 「8階で何かが起きている」。日銀本店でひそひそ話が広がった。8階は正副総裁や審議委員、理事らの部屋が並ぶ。2日後に金融政策決定会合が迫り、通常なら8階では経済データや政策の文言の説明に追われる職員が走り回る。その日は朝から「全くアポイントが入らない」。幹部に面会できず立ち尽くす職員が廊下にあふれた。



日銀は1月22日、物価目標導入を決めた(金融政策決定会合)
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日銀は1月22日、物価目標導入を決めた(金融政策決定会合)

 このころ総裁の白川方明(63)らは自民大勝で現実味を帯びた日銀法改正への対応を協議していた。「2%の物価上昇率目標」を迫る安倍の主張を丸のみすべきか。中央銀行として筋を通すべきか。議論は紛糾した。

 「総裁の職を賭して、戦うべきだ」。OBには主戦論者も目立った。しかし白川らは物価目標をのむ代わりに、日銀法改正を避ける方向にカジを切った。「中銀の独立性が失われ組織をがたがたにされてもいいのか」。関係者によると、有力OBの鶴の一声が決め手となった。海外中銀幹部からも独立性を脅かす法改正を危ぶむ意見が続々と寄せられた。白川は3日後、物価目標の検討を発表した。

 安倍は1月15日、内閣官房参与に就いた米エール大名誉教授の浜田宏一(77)ら金融緩和に積極的な有識者7人を官邸に招き昼食をとった。

 「日銀法改正が必要です」。物価目標の話はもう終わったとばかりに、提案が相次いだ。浜田は「僕は弱腰だが」と控えめに語るが、一部には総裁の解任権に関する言及もあった。今の日銀法に解任権はない。

 浜田とともに参与に就いた静岡県立大教授の本田悦朗(58)は政府・日銀の共同声明で「できるだけ早期」とした2%の物価上昇率の目標について「2年以内の結果で勝負だ」と力説する。本田は官邸の一室に陣取り日銀の出方に目を光らせる。

 日銀職員はどう思うか。40歳代の男性は「何年も前から『物価目標』でも何ら問題はないと思っていた」と語り、別の40歳代の男性は「円安・株高も含め人々は何かが変わるかもしれないと思い始めている。この勢いを利用すればデフレを本当に脱却できるかもしれない」と半信半疑で期待する。OBに比べ現役の敗北感は薄い。(敬称略)

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