日本経済新聞 2013/1/29 7:00
こう言っては失礼かもしれないが、ここまでやるとは予想外だった。
「ヒラリー」こと、クリントン米国務長官である。
まもなく退任し、米外交の表舞台から身をひく。
・1月19日日経夕刊3面「日米、対中連携を強化、米長官、尖閣防衛で踏み込む」 |
・1月20日日経朝刊2面「米、尖閣巡り中国に強い警告」 |
・1月20日朝日朝刊3面「日本、同盟強化へ歓迎」 |
・1月21日日経朝刊2面「中国、『強烈な不満表明』」 |
そして退任の直前、尖閣諸島をめぐり、中国から激しく押し込まれる日本に、
クリントン長官はとっておきの置き土産を残した。
クリントン長官はとっておきの置き土産を残した。
「(尖閣諸島は)日本の施政下にあると認識している。
その施政権を一方的に害する、いかなる行為にも反対する」
その施政権を一方的に害する、いかなる行為にも反対する」
1月18日、訪米した岸田文雄外相との共同記者会見で、こう言い切ったのだ。
何の変哲もない言いぶりに思えるが、実はそうではない。
この発言に踏み切るまでには、オバマ政権内でかなりの議論があったのである。
何の変哲もない言いぶりに思えるが、実はそうではない。
この発言に踏み切るまでには、オバマ政権内でかなりの議論があったのである。
■「ルビコン川」渡った米国
■事実上認めた日本への帰属
これは事実上、日本による尖閣の永続的な支配を認めているようなものだ。
なぜならこれによって、米国はこれまで以上に旗幟(きし)を鮮明にして、
尖閣問題で日本側を支持することになるからだ。
ある意味で、「ルビコン川」を渡ったといってもいい。なぜ、そうなるのか。
尖閣問題で日本側を支持することになるからだ。
ある意味で、「ルビコン川」を渡ったといってもいい。なぜ、そうなるのか。
米政府は尖閣諸島が日中のどちらに属するかについて、中立を崩していない。
そのうえで、米国は日米安全保障条約に基づき、尖閣の防衛義務を負っていると説明してきた。
その理屈はこうだ。
そのうえで、米国は日米安全保障条約に基づき、尖閣の防衛義務を負っていると説明してきた。
その理屈はこうだ。
(1)尖閣は日本が実効支配し、自分の施政下に置いている。
(2)日米安保条約は「日本の施政下にある領域」に及ぶと規定されている。
(3)だから、尖閣は条約の適用条件を満たしている。
ところが、これだと将来的に大きな問題が生じかねない。
中国は尖閣の領空や領海への揺さぶりをくり返している。
この結果、もし日本の実効支配(施政権)が崩れたら、尖閣は日米安保条約の対象から外れてしまう。
そんなふうにも解釈できるからだ。
中国は尖閣の領空や領海への揺さぶりをくり返している。
この結果、もし日本の実効支配(施政権)が崩れたら、尖閣は日米安保条約の対象から外れてしまう。
そんなふうにも解釈できるからだ。
実際、安全保障政策にかかわった元米政府高官は、中国の狙いがそこにあると読む。
「日本による実効支配を崩せば、もはや尖閣には日米安保条約は適用されなくなる。
中国はこう思っている。だから尖閣への揺さぶりを強めているのだ」
「日本による実効支配を崩せば、もはや尖閣には日米安保条約は適用されなくなる。
中国はこう思っている。だから尖閣への揺さぶりを強めているのだ」
この分析が正しいとすれば、クリントン長官の1月18日発言の重みは大きい。
そうした中国の意図を完全に封じ込めることになるからだ。
彼女が言ったことを分かりやすく意訳すれば、次のようになる。
そうした中国の意図を完全に封じ込めることになるからだ。
彼女が言ったことを分かりやすく意訳すれば、次のようになる。
尖閣の実効支配を中国が力ずくで奪おうとしても、米国は認めない。
仮にそういう展開になったとしても、米国は引き続き、日米安保条約を尖閣に適用する――。
仮にそういう展開になったとしても、米国は引き続き、日米安保条約を尖閣に適用する――。
尖閣が日中のどちらの領土か、米国はこれからも公式には中立を貫くだろう。
だが、クリントン発言によって、米国の立場はかなり日本寄りになったのである。
だが、クリントン発言によって、米国の立場はかなり日本寄りになったのである。
「彼女は外交の実務を知らない。日米関係が軽んじられないか」。
クリントン長官が4年前に就任したとき、日本政府内からはこんな不安が聞かれた。
クリントン長官が4年前に就任したとき、日本政府内からはこんな不安が聞かれた。
クリントン長官の夫であるクリントン元大統領は在任中、
米中を「戦略的パートナー」と呼び、日ごとに中国に軸足を傾斜していった。
そんな経験から、彼女も同じ路線を走るのではないか。日本側にはそんな懸念もくすぶっていた。
米中を「戦略的パートナー」と呼び、日ごとに中国に軸足を傾斜していった。
そんな経験から、彼女も同じ路線を走るのではないか。日本側にはそんな懸念もくすぶっていた。
だが、良い意味で予想は大きく外れた。
彼女の在任中、オバマ政権は中国の台頭をにらみ、日米同盟を重視する姿勢を崩さなかった。
彼女の在任中、オバマ政権は中国の台頭をにらみ、日米同盟を重視する姿勢を崩さなかった。
「クリントン長官は当初、強硬な対中観を持っていたわけではなかった。
だが、2010年以降、中国の南シナ海での強硬ぶりを目の当たりにして、一気に見方が厳しくなった」
だが、2010年以降、中国の南シナ海での強硬ぶりを目の当たりにして、一気に見方が厳しくなった」
彼女を知る米有力紙の外交記者はこう語る。
だとすれば、尖閣をめぐって強硬な態度に出ている中国は、墓穴を掘ったことになる。
だとすれば、尖閣をめぐって強硬な態度に出ている中国は、墓穴を掘ったことになる。
同国の習近平総書記は25日、訪中した公明党の山口那津男代表に会い、
日中首脳会談について「真剣に検討したい」と語った。このままでは中国の利益にならない。
習氏もそう感じ始めているのだろう。
日中首脳会談について「真剣に検討したい」と語った。このままでは中国の利益にならない。
習氏もそう感じ始めているのだろう。
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