2013年1月24日木曜日

首相執念 物価目標巡り暗闘1カ月

首相執念 折れた日銀
物価目標巡り暗闘1カ月 期限、あいまい決着
                                                    2013/1/23 3:30

 政府と日銀は22日、2%の物価上昇率目標を盛り込んだ共同声明を公表し、新たな金融政策へ一歩踏み込んだ。慎重姿勢を崩さなかった日銀を動かしたのは、衆院選前からデフレ脱却に向けた「レジームチェンジ(体制転換)」を求め続けた安倍晋三首相の執念だった。世界的に関心を集める政策実験が動き出す形だが、目標達成のハードルは高い。
記者会見する白川日銀総裁=22日
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記者会見する白川日銀総裁=22日
記者の質問に答える安倍首相=22日
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記者の質問に答える安倍首相=22日
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 「画期的な文書だ」。22日午後、共同声明の報告に首相官邸を訪れた日銀の白川方明総裁に、安倍首相はねぎらいの言葉をかけた。だが政府・日銀の連携強化に向けた文書が「共同声明」として仕上がるまでの約1カ月、首相と日銀は物価目標を巡って暗闘を続けた。

「劇薬」の解任権


 「物価目標が達成できなければ、日銀総裁を解任できるようにすべきだ」。15日昼、安倍首相が麻生太郎財務相、甘利明経済財政・再生相らを呼んで開いた勉強会。首相のブレーンの一人が配った政府・日銀の共同声明の試案には、日銀にとって「劇薬」の総裁解任権が盛り込まれていた。

 共同声明で論点となったのは、物価目標2%の達成期限と、達成できなかった場合の責任の所在。「日銀と政府の共同責任」というのが、財務省・内閣府と日銀の事務方が当初想定した落としどころだった。

 「デフレ脱却は金融緩和だけでは無理」「潜在成長力引き上げに向けた政府の努力も不可欠」というのが白川総裁の持論。物価安定の「めど」として掲げてきた1%の物価目標を2%に引き上げる案はのんだが、日銀だけが責任を負う形は避けようと粘った。

 9日の経済財政諮問会議。「日銀は責任をもってやってください」。首相は席上の白川総裁に迫った。同総裁が政府に成長力強化を求める持論をぶった直後の不規則発言。空気は凍り、2%の物価上昇率が「日銀の目標」として明確に位置付けられる方向性が固まった。

 「長期、中長期はあり得ない」。目標達成の期限でも首相は持論を押し通した。着地点は「できるだけ早期に」。前倒しでの実現を求める首相側と、期限を区切られて過度な緩和を迫られる事態を懸念する日銀が折り合ったのは「スピード感を示す」(政府関係者)表現だった。目標達成の期限や、達成できなかった場合の責任論は曖昧なまま決着した。

委員2人「反対」


 衆院選で圧勝した首相の勢いに折れた日銀。しこりは残る。「いまの物価がマイナス圏なのに、いきなり2%の物価目標を掲げても中央銀行の信認を失うだけだ」。行内の異論はこの一点に集約される。

 「まずは物価上昇率1%を着実に目指すべきだ」と訴えてきた木内登英、佐藤健裕両審議委員は、22日の政策決定会合で2%目標の導入にそろって反対票を投じた。今後、2%の物価目標を目指した金融政策運営に、民間エコノミスト出身の両審議委員は異論を唱え続ける可能性が高い。

 「日銀法改正と今年4月の総裁人事がちらついた」。日銀幹部は苦渋の表情を浮かべる。日銀が守り通したのは日銀法が掲げる「金融政策の独立性」だ。日銀法改正の可能性について22日の記者会見で問われた菅義偉官房長官は「共同声明を見る限り、そういう必要はなくなってきている」と理解を示した。

 安倍首相や首相のブレーンの浜田宏一・米エール大学名誉教授(内閣官房参与)が主張していた雇用の安定を日銀の政策目標に含める案もひとまず見送られた。

 だが白川総裁が「相当思い切った努力が必要」と認める通り、物価上昇率2%という目標達成のハードルは高い。実現の見通しがつかなければ、日銀への風圧が強まる構図は安倍政権が続く限り、変わりそうにない。

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