2013年2月25日月曜日

「アベはナカソネの再来か」

「アベはナカソネの再来か」 米高官の一言
                                                        2013/3/1 7:00


 「アベはナカソネの再来か」。米エネルギー省原子力諮問委員会のウィリアム・マーチン国際委員長は日米同盟強化を確認した2月22日の安倍晋三首相とオバマ大統領との初会談の結果をみて、こう漏らした。マーチン氏はレーガン政権のエネルギー省副長官で、オバマ政権下でも政策の助言を続ける。「ロン」「ヤス」と互いにファーストネームを呼び合った当時のレーガン大統領と中曽根康弘首相の蜜月関係を間近でみていた1人だ。

■日米関係や政策に類似点



2月22日、首脳会談で握手する安倍首相とオバマ米大統領(ホワイトハウス)=AP
画像の拡大
2月22日、首脳会談で握手する安倍首相とオバマ米大統領(ホワイトハウス)=AP

 マーチン氏は中曽根氏と安倍氏についていくつかの類似点を指摘する。1つは日米を取り巻く環境だ。中曽根氏が首相に就任したのは1982年11月。日米関係は前任の鈴木善幸首相が首脳会談後に「日米安全保障条約には軍事的協力は含まれない」と発言し、米側が猛反発、日米関係は悪化していた。

 安倍氏も民主党政権での日米関係の弱体化を受けて昨年12月に再登板した。2009年8月の総選挙で発足した民主党政権で鳩山由紀夫首相が沖縄県の普天間基地の県外移設を主張した揚げ句に撤回するなど蛇行した。民主党政権は米側の信用を回復することなく、政権の座を失った。

 マーチン氏が驚くのは日米を巡る状況だけではない。安倍氏と中曽根氏が外交日程の組み立て方まで似ていることだ。安倍、中曽根両氏とも首相就任からちょうど2カ月後の訪米だった。直前の外国訪問がアジアだったことも同じだ。



米エネルギー省原子力諮問委員会のウィリアム・マーチン国際委員長
米エネルギー省原子力諮問委員会のウィリアム・マーチン国際委員長

 2つめは政策だ。外交・安全保障政策を巡り安倍氏は13年度予算案で、11年ぶりに防衛費を増額した。中曽根氏が最後に編成した87年度予算。三木内閣以来の方針だった防衛費を国民総生産(GNP)の1%以内にとどめる「防衛費1%枠」を撤廃し、米軍との協力拡大に踏み出した。安倍氏も日米防衛協力のための指針(ガイドライン)を16年ぶりに再改定、米軍との一体運用を進める。

 経済政策も似通う。80年代は日米経済摩擦が激化していたころだ。日本からの輸出増加に伴い、米国の貿易赤字が拡大。レーガン氏は日本に内需拡大を要求し、中曽根氏も米製品の購入を促すなど摩擦の沈静化に腐心していた。今回の安倍、オバマ両氏の会談の最大の焦点は環太平洋経済連携協定(TPP)問題。マーチン氏は米側の要請もあり、安倍氏が参加を決断したことにも何らかの因果を感じている。

 日中関係が緊迫している現状も重なる。中曽根氏は85年に靖国神社を公式に参拝し、対立が先鋭化した。昨年の沖縄県・尖閣諸島の国有化以降、付近での中国の挑発行為が続く。1月下旬には中国海軍艦船が海上自衛隊護衛艦に火器管制レーダーを照射する事件が起き、日中は偶発的な衝突の危険性もある。

■オバマ氏とレーガン氏は異なるが…



蜜月関係といわれた中曽根首相(左)とレーガン大統領(1986年4月、ホワイトハウス、後列右は安倍晋太郎外相、肩書は当時)=AP
画像の拡大
蜜月関係といわれた中曽根首相(左)とレーガン大統領(1986年4月、ホワイトハウス、後列右は安倍晋太郎外相、肩書は当時)=AP

 安倍、中曽根両氏がここまで酷似するのはなぜか。マーチン氏は「アベのファーザーがナカソネナイカクで『foreign minister(外相)』だったからだろう」と分析する。安倍氏の父、晋太郎氏は中曽根内閣の発足当初から4年近く外相を務め、その外相秘書官は晋三氏だった。晋三氏も父とともに中曽根氏の外交・安全保障政策を体感できる位置にいたのだ。

 ではレーガン、中曽根両氏のような蜜月関係は安倍、オバマ両氏でも可能なのか。ビジネスライクでどの国の首脳とも個人的な関係を築かないオバマ氏と、俳優出身のレーガン氏は異なる。冷戦終結に向けて「強い米国」をうたい、力の外交を展開していたレーガン氏と、対話重視のオバマ氏の外交方針も違う。

 それでもマーチン氏は安倍氏がオバマ氏と「大変chemistry(相性)が合った」と発言したことに注目する。「ロン・ヤス」関係まででないにしろ、日米関係改善への手応えを感じている。盤石な日米関係のもと中曽根氏は5年近く政権を維持した。

 政権寿命と日米関係の強度は比例するともいわれる。「アベはナカソネの再来か」。米側が今回の首脳会談を通じて安倍氏に好感を持ったのは、この例えからも分かる。安倍氏は米側の期待に応え、長期政権を築くことができるか。今夏の参院選がその第一関門であるとマーチン氏はみる。

0 件のコメント:

コメントを投稿