2013年6月22日土曜日

FRB100年目の試練 FOMC 円安 株乱高下

NY特急便


米緩和縮小、FRBに「100年目の試練」
NQNニューヨーク・森安圭一郎

                                                                                 2013/6/22 9:26

 今年最悪の下落から一夜明けた21日、米株式市場はやや落ち着きを取り戻したようだ。ダウ工業株30種平均は3日ぶりに反発し、41ドル高で終えた。
 「砂ぼこりが収まった時、いるべき場所は株式市場だ」。有力ヘッジファンド創業者のデイビッド・テッパー氏のこんなコメントが伝わったことも相場を支えた。強気で鳴らすテッパー氏は、米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和の縮小に動くのは「将来の景気回復を見込んだからこそ」であって、投資家は株式を買うのを恐れるべきでないと主張する。
 バンクオブアメリカ・メリルリンチのマイケル・ハートネット氏も「流動性縮小と景気拡大の組み合わせは株式にプラス」といい、債券などに比べた株式投資の優位を引き続き予想する。
 とはいえ、19日のバーナンキFRB議長の記者会見が市場に残した爪痕が大きかったのも事実。特に気になるのは長期金利の上昇が止まらない点だ。21日はついに1年10カ月ぶりに2.5%を突破。議長会見の前と比べた上昇幅は0.35%に達する。金利上昇(国債価格の下落)はゆっくり進むのであれば「債券から株へ」の健全な資金移動の証しになるが、ペースが速すぎるとマネー全体の流れに変調を招いてしまう。
 市場関係者の間では、米金利上昇をきっかけとした新興国からの資金流出が、メキシコ通貨危機に飛び火した1994年の状況に似てきたとの声も出ている。平静を回復したように見える21日の株式市場でも、金利上昇に弱い住宅株には売りが止まらず、神経質なムードが続く。
 量的緩和の「補助輪」を外すそぶりをみせただけで動揺する気難しい市場。間合いを計り間違えれば立ち直りつつある米景気の腰すら折りかねない。前例のない大規模緩和の修正を、市場にショックを与えずにやり遂げるという重大な試練がFRBを待ち構える。
 FRBが発足したのはちょうど100年前の1913年12月。米国にはそれまで中央銀行がなく、各地の銀行がそれぞれ貨幣を発行していた。だが1907年の金融危機で取り付け騒ぎが連鎖した反省から米議会が動き、流動性供給の中枢機関としてFRBを創設した経緯がある。
 危機への対処と、その「出口」との対峙(たいじ)はFRBという組織が持って生まれた宿命といえる。
 FRBには忘れられないトラウマがある。第1次大戦中、政府の戦費調達に協力して金利を低く抑えたため1920年代にインフレとバブルを引き起こした。30年代には逆に不用意な金融引き締めに転じ、大恐慌を悪化させた。
 FRBに加わる前、学者としてこの時代の政策対応を検証・批判してきたのがほかならぬバーナンキ氏だ。評価される側に回ったいま、歴史の教訓を生かせるかどうかが問われている。

株式FOCUS
FOMC受け株連鎖安、調整いつまで続く プロの見方

 
米国の量的金融緩和の縮小懸念が世界の株式市場を揺さぶり、連鎖安を引き起こしている。前日の米株式市場でダウ工業株30種平均が今年最大の下げ幅となった流れを受け、21日の東京市場では日経平均株価の下げ幅が一時300円を超えた。午後に入り急速に下げ渋る場面もあったが、資金流出に対する警戒感は根強い。調整局面はいつまで続くのか。市場関係者に見方を聞いた。


 
「日本株の調整は一巡、米株落ち着けば下値切り上げも」


りそな銀行チーフストラテジスト 下出衛氏

 FRBのバーナンキ議長が量的緩和縮小を表明し、世界的な金融相場が一巡した。海外投資家を中心とした持ち高調整の売りが日経平均を押し下げているようだ。ただ、日米の金融政策の姿勢に差が出たことで、為替相場は円安に振れやすい環境下にある。足元でも円相場の上昇は一服しており、買い戻しが入る一因になっている。日本株の調整はおおむね済んだとみており、今晩以降の米株式相場が落ち着きを取り戻せば、日本株は下値を切り上げていく展開が見込めるだろう。

 FRBによる年内の量的金融緩和縮小は市場予想通りだったが、バーナンキ議長が来年半ばに終了する可能性を示唆したことは驚きだった。ただ、緩和を縮小する背景には米経済の回復があり、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)からみれば日本株の支えになる。

 日経平均は売られすぎた分の買い戻しなどで、7月には1万4000円を回復できるだろう。一段と上値を追うには、海外景気はもちろんだが、国内の政策も注視したい。金融、財政、成長戦略と、次々と施策を打った安倍政権だが、今後は規制緩和や財政健全化など「第4の矢」が放たれることが大事だ。そのためには夏の参院選で、自民党が勝利し安定政権を築けるのか見極める必要がある。

 前哨戦である23日投開票の東京都議選の結果次第では、その期待が前倒しで高まる可能性がある。政府が切れ目無く対策を打ち続ければ、国内景気の回復や円安による企業業績の改善なども重なり、年末にかけて1万5000円程度を目指す展開になる。15年度の景気回復の持続性に確信が持てれば、さらに上振れる可能性もあるだろう。
「下値メド1万2500円、9月まで上値重い展開続く」


SMBC日興証券チーフ株式ストラテジスト 阪上亮太氏

 日経平均が大きく下げた背景は米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見でバーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長が量的緩和縮小の時期を明示したためだ。運用リスクを取りにくくなるとして、資金を引き揚げる動きが加速した。米景気の回復を前提とした緩和縮小であり「円安で株高になる」という見方も一部にはあったが、そうならなかったのは「リスク・オフ」の勢いが強かったためだろう。

 短期的な米景気の減速懸念や、新興国からの資金流出による世界景気の先行き不透明感といったものも、株安の要因とみている。加えて中国の金融市場での短期金利の急騰が下げに拍車を掛けたようだ。中国での短期金利の上昇は、資金繰りに行き詰まる金融機関が出て信用不安が高まって景気を冷やす「金融危機」の可能性もはらんでおり注意が必要だ。

 こうした外部環境のなか、日本株は引き続き乱高下する展開になりやすい。ただ、日銀の大胆な金融緩和策を手掛かりに大幅上昇した後すでに調整が始まっており、下値は限られるとみている。日経平均は、当面は1万2500円が下値の目安となりそうだ。日銀の緩和前の水準であるほか、予想PER(株価収益率)でみても世界と比べ割安感が出るためだ。いまの円安水準であれば輸出企業の業績上振れも期待できる。日本株には押し目での買いが入りやすく、1万4000円程度までは上昇余地がある。

 上値を追うには、イベントが集中する9月まで待つ必要がある。FRBが実際に9月に量的緩和を縮小するとなれば、経済指標が一段と改善しているのではないか。景気を下押ししていた財政問題の影響も徐々に和らいでくるだろう。日本では、夏の参院選で自民党が勝利すれば、追加の補正予算や金融緩和、成長戦略の第2弾などへの期待も高まる。2020年の夏季五輪の東京開催が決まれば、景気回復を後押しするとみている。こうした好材料が相次ぐならば、年内に1万6000円台を回復するシナリオも現実味が増すだろう。
                                         
2013/6/21 11:34 (2013/6/21 12:55更新)    [有料会員限定]
                                       (聞き手は酒井隆介)
 
株乱高下「円先安観が支え」「落ち着きには時間」市場関係者に聞く
 21日の東京株式市場で日経平均株価 が乱高下した。前日の米国株急落を受けて売りが先行したが、その後は次第に買いが優勢になった。日経平均は結局、前日比215円高の1万3230円で終えた。日中の高値と安値の差は627円となり、13日以来の大きさだった。株価が乱高下した背景や今後の相場見通しを市場関係者に聞いた。
■窪田朋一郎・松井証券シニアマーケットアナリスト
 朝方に先行した売りに、個人投資家などは追随しなかった。相場の底堅さを受けて、後場に入ってからは一転、買い戻しが活発になったようだ。ファストリなど日経平均株価 への寄与度 の高い銘柄が指数を押し上げた。日経平均は5月末の急落でいち早く調整し、米国株などと比べて売りが出にくくなっているうえ、個人投資家は買い越し基調を続けている。
 米国では量的金融緩和 の早期縮小懸念を株価が織り込んでいく状況とみている。一方、日本は「異次元緩和」が始まったばかりだ。投資家がリスク回避姿勢を強め、新興国から投資資金を引き揚げるなかでも、日銀の異次元緩和が買い安心感につながる日本株は買われる展開が続くだろう。円安の進行も追い風だ。値幅の大きい展開には注意が必要だが、日経平均は1万2500円近辺で下値を固める公算が大きい。
■野崎始・三菱UFJ投信チーフファンドマネジャー
 21日の日経平均株価は荒い値動きとなり、結局215円高で取引を終えた。米量的緩和政策の縮小時期が近づいてきたことは米金利上昇によるドル高・円安につながり、中期的には日本株にプラスだと考えている。きょうの後場の上げも円安期待を背景に日本株の先高観を強めた投資家の買いだと見ている。
 もっとも、グローバルな流動性供給につながった米量的緩和の規模縮小が現実味を帯びたことで、世界の金融市場は動揺している。落ち着きを取り戻すまでは時間がかかるだろう。今後1カ月の日経平均は1万3000円前後で方向感のない値動きに終始しそうだ。
 日経平均は13日に1万2445円を付け、5月23日からの下げ基調は一服したと見ている。高値から3000円超下げ、値幅調整は一巡した。再び上昇基調に戻るには日柄調整が必要だ。
 経験則的には日柄調整には1~2カ月かかると見ている。5月23日から約2カ月後の7月21日には参院選の投開票が控える。参院選の結果でファンダメンタル(経済の基礎的条件)や政策期待が変わるわけではないが、参院選を通過したことが日経平均の再上昇の契機になる可能性はある。
■藤代宏一・第一生命経済研究所副主任エコノミスト
 朝方は前日の米国株急落を受けて売りが膨らんだが、買いが次第に優勢になった。買いの背景は中長期的な円相場の先安観だ。このところ、円相場は企業の想定レートの平均的水準である95円前後で推移していたが、徐々に円安方向に戻ってきている。足元で低下した企業業績の上振れ期待が再度高まってきたことが日本株の支えとなっている。
 18~19日の米連邦公開市場委員会 (FOMC)前までは、米量的緩和の早期縮小による世界的な緩和マネーの巻き戻し懸念の一環で、円売りポジションの解消が進んだ。バーナンキ米連邦準備理事会(FRB )議長が年内の縮小開始の方向性を示したことで不透明感が和らいだため、外国為替市場ではリスク回避を背景とした円売りポジションの巻き戻しは起こりづらくなった。むしろ、日米の金利差拡大をにらんだドル買い・円売りが進むとの見方が強まっている。
 円安を背景にした日本株の上昇基調は崩れておらず、日経平均株価の年内の上値メドとしては1万7000円前後とみている。
〔日経QUICKニュース(NQN)尾崎也弥、矢内純一、椎名遥香〕         
                                                       2013/6/21 16:00[有料会員限定]
 
株式FOCUS
米緩和縮小で動き出す「円安・株高」第2幕
 
20日午前の東京市場で日経平均株価 は反落し、長期金利 も一時上昇(債券相場は下落)した。19日(日本時間20日未明)に米連邦準備理事会(FRB )のバーナンキ議長が記者会見で「年内に証券購入のペースを緩やかにするのが適切と考えている。2014年半ばには証券購入を終了させたい」と表明。量的緩和の縮小時期が市場の想定より早いとの見方から、米国株と米国債 がともに売られた流れを受け継いだ。だが市場関係者は米景気拡大を反映してドルが買われ、海外市場で一時1ドル=97円台まで円安が加速したことに注目。米国の出口戦略の本格始動がドル高・円安を通じて、日本株の上昇につながる可能性を意識しつつある。

19日、ワシントンで記者会見するFRBのバーナンキ議長=ゲッティ・共同
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19日、ワシントンで記者会見するFRBのバーナンキ議長=ゲッティ・共同
 FRBは19日まで開いた米連邦公開市場委員会 (FOMC)で事実上のゼロ金利政策 の維持を決定した。その後のバーナンキ議長の量的緩和縮小に関する発言を受け、ダウ工業株30種平均株価 は前日比206ドル(1.3%)下落し、米10年物国債利回り は前日比0.17%高い2.35%に上昇した。20日の東京マーケットも株安・債券安で始まったが、市場関係者の間では「資産購入の終了時期にまで踏み込んだバーナンキ議長の発言は事前の市場予想に比べタカ派的で、米国株・米国債が売られた。出口戦略に取り組んでいる米国の実体経済は強く、今後は円安・株高の基調が強まる」(SMBC日興証券の宮前耕也エコノミスト)との見方が広がっている。

 市場の方向感を分けているのは、米量的緩和の縮小を世界的な流動性相場の終わりとみるか、米経済の改善による本格的な業績相場 の始まりと捉えるかの違いだ。この点について、野村証券の伊藤高志エクイティ・マーケット・ストラテジストは「量的緩和の出口を明確に意識している米国と、アベノミクスを進めている日本では景気の状況が異なり、日米株は必ずしも連動しない。米国の景況感の強さを反映したドル高は、ドイツや韓国などによる円安批判を引き起こす余地がなく、日本株にとってプラスだ」と指摘する。
 アベノミクスの大胆な金融緩和と黒田東彦日銀総裁が打ち出した量的・質的金融緩和を手掛かりに、日経平均は5月22日に1万5627円の年初来高値を付けた。しかし代表的な投資指標である予想PER (株価収益率)は同日終値時点で17.77倍(東証1部)と、やや割高感が指摘される水準に上昇していた。その後の相場調整によって、6月19日終値時点では15.41倍に低下。米国株と同じ15倍台となり、世界的にみて日本株の割高感は解消されている。

 日経平均は5月29日に5日移動平均線 が25日移動平均線を上から下に突き抜ける「ミニ・デッドクロス」を形成したが、ここにきて5日移動平均線の上昇転換によって両者は再び接近しており、相場の調整には一巡感が出ている。さらに7月に入ると14年3月期第1四半期(13年4~6月期)の決算発表が始まる。期初時点の業績予想が慎重だったこともあり、四半期決算 発表と同時に、通期業績予想を上方修正する企業が相次ぐ可能性がある。予想1株利益の上方修正に伴い、株価の水準訂正も進むだろう。
 大和証券の藤倉敬グローバル・エクイティ・トレーディング部長は「企業業績がよくなることは大事。海外でも日本株に詳しいファンドは上方修正があっても織り込み済みと受け止めるが、他の多くの投資家は修正内容を確認して買いを入れる」という。
 第1四半期決算発表の7~8月、現状のドル高・円安基調が続けば4~9月期決算が開示される10~11月には、通期業績予想の上方修正が増える。12年11月以降の急騰局面で買い遅れていた内外の機関投資家が、企業業績の改善を確認して日本株に買いを入れる。13年の年末終値が1万395円を上回れば、日本株は2年連続の上昇となる。2年連続で上昇した市場には14年以降、一段の資金流入増も予想される。
 米国の量的緩和縮小がもたらすドル高経由の好環境を日本株が享受するのはこれからだ。「円安・株高」を背景に躍進するアベノミクス相場の第2幕が始まりつつある。
(電子報道部 小林茂)      2013/6/20 12:00    [有料会員限定]






 

 


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