2012年7月5日木曜日

東電福島原発事故は 人災  日経新聞記事

原発への監督機能「崩壊していた」 国会事故調   東電とのなれあい批判    2012/7/5 22:58
 

  国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(黒川清委員長)は5日発表した最終報告書で、原発の安全性を高める規制の先送りを働き掛けた東京電力と黙認した規制当局のなれあいの関係を厳しく批判した。原発に関する情報や専門性で優位に立つ東電に当局が取り込まれ「監視・監督機能が崩壊していた」と指摘。事前に対策を立てずに被害拡大を許した「根源的原因」と断じた。
 「規制当局は電力事業者の『虜(とりこ)』となっていた」。報告書は東電と経済産業省原子力安全・保安院や内閣府原子力安全委員会との関係を経済学用語の「規制の虜」で説明した。規制される側が情報を独占し、規制する側を言いなりにしてしまう状況だ。
 国会事故調によると、東電は原発の安全性を高める規制の導入に対して原子炉の稼働率低下や安全性に関してこれまで積み上げてきた主張を維持できなくなる「訴訟リスク」を懸念した。こうした事態を避けるため、情報の優位性を武器に電気事業連合会などを通じて当局に規制先送りや基準軟化に向けた強い圧力をかけてきたという。
 東電よりも専門性で劣る保安院や安全委も過去に安全と認めた原発での訴訟リスクを恐れた。保安院自体も原子力推進官庁である経産省の一部だったため、東電に取り込まれたと分析した。
 たとえば2006年に新指針で全国の原子力事業者に耐震安全性評価(バックチェック)の実施を求めたが、東電では進まなかった。東電や保安院は耐震補強工事が必要と認識しながら福島第1原発1~3号機で工事をせず、保安院は大幅な遅れを黙認したという。
 事故直後の対応では、東電経営陣、規制当局、首相官邸のいずれも「準備も心構えもなく、被害拡大を防ぐことができなかった」と厳しく責任を追及した。過去の事故の規模を超える災害の備えが無い保安院は原子力災害対策本部の事務局の役割を果たせなかった。
 東電本店も的確な情報を官邸に伝えて現場を技術支援する役割を果たせなかった。国会事故調は「官邸の顔色をうかがい官邸の意向を現場に伝える役割だけの状態」と指摘。機能不全の保安院と情報不足の東電に不信感を強めた官邸では、当時の菅直人首相が発電所に直接乗り込み指示する事態になった。その菅氏の判断も「指揮命令系統の混乱を拡大する結果となった」と非難した。
 菅氏は5日、報告書に対して「官邸の事故対応に対する評価や東電の撤退を巡る問題などで私の理解とは異なる」との談話を発表。事故対応の検証のため、東電に対してテレビ会議記録など一層の情報開示を求めた。

原発安全策の先送り追及 国会事故調報告「地震で損傷も」    2012/7/6 1:40
 

  国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(黒川清委員長)は5日、最終報告書をまとめ衆参両院議長に提出した。事故は「自然災害ではなく明らかに人災だ」と明記。東電と、経済産業省原子力安全・保安院など規制当局の「不作為」による安全対策の先送りが深刻な事態を招いたと指摘した。津波だけでなく地震の揺れで原発が損傷した可能性にも触れた。
 事故の根源的な原因が「2011年3月11日の地震発生以前に求められる」との見方を示した。福島第1原発は「地震にも津波にも耐えられる保証がない、脆弱な状態だったと推定される」としたうえで「何回も対策を打つ機会があったにもかかわらず、歴代の規制当局と東電経営陣が安全対策を取らないまま」だったと判断した。
 東電については「常により高い安全を目指す姿勢に欠け、原子力を扱う事業者としての資格があるのか」と厳しく批判した。
 緊急時の対応に関して「首相官邸、規制当局、東電経営陣には準備も心構えもなく、被害拡大を防ぐことはできなかった」と強調。「官邸と規制当局を含めた危機管理体制が機能しなかった」「事業者(東電)と政府の責任の境界があいまいだった」を理由に挙げた。
 事故の直接的な原因が津波とする東電の主張には疑問を投げかけた。「安全上重要な機器の地震による損傷はないとは確定的には言えない」とし、特に1号機では地震による損傷の可能性が否定できないと分析した。
 調査を踏まえ、7つの提言を国会に示した。原子力規制組織を監視できるよう国会に常設の委員会を設置することや、政府の危機管理体制の見直しを求めた。未解明の事故原因や廃炉に向けた道筋、使用済み核燃料問題などを調査する民間中心の第三者機関「原子力臨時調査委員会(仮称)」の設置を促した。
 国会事故調は昨年12月に発足した。設置法は報告書を衆参両院議長に提出した後、活動を終えるとしている。両議長は報告書を内閣に送付するが、扱いに関する法律の規定はなく、国会や政府の判断に委ねている。

「原発事故は人災」 国会事故調が報告書決定
官邸の過剰介入を批判 2012/7/5 13:35 小サイズに変更中サイズに変更大サイズに変更印刷
 国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(黒川清委員長)は5日、事故の原因や対応の改善策などを盛り込んだ最終報告書を決定し、衆参両院の議長に提出した。午後に公表する。報告書は首相官邸の対応について「発電所への直接的な介入は指揮命令系統の混乱を拡大する結果となった」と明記。当時の菅直人首相らの初動対応を批判している。


横路衆院議長(右)に福島原発事故の調査報告書を手渡す国会事故調の黒川清委員長(5日午後、国会内)
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 報告書は菅氏について「首相は緊急事態宣言の発出がすべての事故対応の前提になることを十分理解していなかった」と指摘。「何度も事前に対策をたてるチャンスがあったことに鑑みれば、今回の事故は自然災害ではなく、あきらかに人災だ」と結論づけた。「被害を最小化できなかった最大の原因は官邸および規制当局を含めた危機管理体制が機能しなかったこと、そして緊急時対応で事業者の責任、政府の責任の境界があいまいだったことにある」とした。
 当時の清水正孝・東電社長らが政府に福島第1原発からの「全面撤退」を求めたとされる問題でも「東電が全面撤退を決定した形跡はない」と明記した。
 政府に危機管理体制の見直しや規制当局への国会の監視など7項目の提言を盛り込んだ。
 同日の委員会で、黒川委員長は「短期間だが徹底した調査、検証を行ってきた。報告書の提言を着実に実行し、不断の改革の努力を尽くすことが、国会や国民一人ひとりの使命だ」と述べた。
 先月9日に発表した論点整理では、菅氏らが現地の発電所内と直接連絡をとった経緯などを挙げて官邸が「事故対応に過剰介入したのではないか」と指摘した。報告書でも、事故発生後の菅氏らの言動が初動対応での混乱に拍車をかけたとの見解を示した。
 国会事故調は昨年12月から調査を進めてきた。これまでに菅氏や当時の官房長官だった枝野幸男経済産業相、経産相だった海江田万里氏と、東電の勝俣恒久前会長(当時会長)、清水氏らを公開で聴取。菅氏らの聴取決定まで時間がかかったことから、当初予定していた6月中の報告書提出は7月にずれ込んだ。

政府事故調、東電の報告書批判 「大事な点抜けている」    2012/6/25 21:52
 

  政府の東京電力福島原子力発電所事故調査・検証委員会の畑村洋太郎委員長は25日に記者会見し、想定外の津波を事故原因とした東電社内の事故調査委員会の報告書について「大事なところが抜けている」と述べ、「自分たちに何か足りない部分があったと考えるのが必要な見方ではないか」と批判した。
 政府事故調は計769人にヒアリングを終え、7月23日に最終報告書を公表する。
 畑村委員長は東電の報告書について「誰かが何か決めて、それに従っていればいいんだという感じを受けた」とも指摘。損害賠償や訴訟を抱え、「ストレートにものを言える立場じゃないんだろう」と分析した。
 首相官邸が東電に過剰介入したとする国会事故調の指摘にも「あれだけ必要な情報が共有できなければ混乱はどこでも起きる」と見方が異なることを強調。「違う視点の人たちが事故を調べるのは大事なことだ」と話した。

東電社内事故調が最終報告書 過失や責任認めず    2012/6/20 20:57
 東京電力は20日、社内の福島原子力事故調査委員会(委員長=山崎雅男副社長)による最終報告書を公表した。想定外の津波と備えが不十分だったことが事故の根本的な原因だと結論づけた。政府や民間の事故調が指摘した初動時の人為ミスや想定不足について過失や責任を認めず、自己弁護が目立つ内容となっている。

東電原発事故調査委の最終報告書を公表する山崎雅男副社長(20日午後、東京・内幸町)=共同 報告書はA4判で本文352ページ。社内事故調が勝俣恒久会長や清水正孝前社長ら経営幹部を含む役員と社員約600人に聞き取り調査し、有識者による検証委員会にも意見を聞いた。
 巨大津波や浸水の恐れについて、過去に国や専門家から指摘を受けていたことは認めたが、「最新知見を踏まえて対策を施す努力をしてきた」と説明した。記者会見した山崎副社長は「結果的に甘さがあった」と述べたものの、「できる限りのことは尽くしてきた」と想定不足の責任はないと強調した。
 政府事故調が操作ミスを指摘していた1号機の非常用復水器(IC)や3号機の高圧注水系(HPCI)については「厳しい環境の中で現場職員が懸命に事故の収束にあたった」(山崎副社長)と初動対応に過失はなかったと結論付けた。
 東電本店と福島第1原発を結んだテレビ会議の映像は「プライバシーの問題が生じる」として公表しなかった。
 事故直後に作業員の全面撤退を申し出たかどうかを巡り東電と官邸とで認識が真っ向から対立しているのは「言葉の行き違いによるものだ」と指摘。官邸の現場介入については「緊急事態対応の中で無用の混乱を助長させた」と批判した。
東電社内事故調の報告書の主な内容事故の根本原因は想定外の大きさの津波だった。津波想定には結果的に甘さがあった。津波の備えが不十分だった
過去の災害や事故の知見を反映し、安全向上の取り組みを継続してきた
作業に直接関係しない者の一時退避を検討したが、全面撤退ではなかった。(全面撤退と理解した官邸とは)言葉の行き違いで誤解があった
主な放射性物質の放出は3月15日、2号機原子炉建屋から
重要機器の地震による損傷は確認されていない
 原発の北西方向に放射性物質の高汚染地域ができた最大の要因は、1号機や3号機の水素爆発やベント(排気)ではなく、昨年3月15日に2号機から出たものだと分析した。格納容器の一部が損傷したとみられているが、原因については言及しなかった。格納容器の圧力が大幅に低下し、原子炉建屋から白い煙が出て、北北西方向の風が吹き雨が降ったことを理由に挙げるにとどめた。
 地震の揺れによって原子炉の主要な機器が損傷したかどうかについては確認されていないとした。
 東電事故の報告書では、国会事故調が6月末、政府事故調が7月下旬に最終版を公表する予定。東電や政府の責任などを追及する方針だ。

「官邸の初動は過剰介入」 福島原発で国会事故調   政府に危機管理見直し求める    2012/6/9 20:09
 

  東京電力福島第1原子力発電所の事故原因を調べる国会の事故調査委員会(黒川清委員長)は9日、報告書作成に向けた論点整理を発表した。原発事故発生後、菅直人前首相(事故当時は首相)ら首相官邸内の初動対応を「オンサイト(発電所内)の事故対応に過剰介入したのではないか」と問題視し、政府に危機管理体制の見直しを求めた。
 国会事故調はこれまでに菅氏や事故当時官房長官だった枝野幸男経済産業相ら政府首脳と、東電の勝俣恒久会長、清水正孝前社長(当時社長)らから事情を聴いた。月内にも報告書をまとめ、国会に提出する。
 論点整理は、事故発生後、政府の初動対応に遅れがあったとの認識を示した。原子力災害対策特別措置法に基づき、放射能漏れや電源喪失など事業者から事故発生の通報を受け「直ちに緊急時対応を実施する体制へと移行する必要があった」と総括。しかし、実際には「通報の重要性や意味合いを十分に認識できず、事故への初動に遅れが生じたのではないか」と指摘した。
 菅氏ら官邸側による「過剰介入」として、福島第1原発の吉田昌郎前所長ら現場に状況を直接確認したことなどを挙げた。原子炉格納容器から気体を放出する「ベント」の遅れや海水注入の中断問題などを念頭に「官邸と発電所が直接やりとりする、本来予定しない情報伝達があった」と指摘。「時には場違いな初歩的な質問がされるなど、発電所で現場対応にあたるものが余分な労力を割かれる結果となった」とも批判し「頻繁に介入を繰り返し、指揮命令系統を混乱させた」と断じた。
 3月14日に東電の清水前社長らが政府に福島第1原発からの「全面撤退」を求めたとされる問題では「東電が全面撤退を決定した形跡は見受けられない」と結論付けた。
 原発周辺の被災者に向けた情報発信でも「情報発出側の責任回避に主眼が置かれ、住民の健康と安全は顧みられなかった」と政府側を批判した。

原発撤退の混乱「伝え方に問題」 国会事故調 東電前社長「全員離れるとは考えず」      2012/6/9

 東京電力福島第1原子力発電所事故を検証する国会の事故調査委員会(黒川清委員長)は8日、清水正孝東電前社長を公開で聴取した。原発からの全面撤退を申し出たとされる問題で、清水氏は改めて否定した。東電と官邸との意思疎通不足が官邸の不信と過剰な介入を招いたと事故調は指摘。国と事業者がもたれ合う中で、危機管理体制をあいまいにしてきたツケが浮き彫りになった。

  福島第1原発では昨年3月14日、3号機が水素爆発し、2号機も爆発の危険が高まった。清水氏は海江田万里元経済産業相らに電話して作業員を退避させる意向を伝え、全面撤退と受け止めた菅直人前首相は東電本店に乗り込み「撤退はありえない」と発言した。これについて清水氏は「全員が離れることは考えていなかった」と反論した。
 事故調は吉田昌郎前所長にも聴取し、東電は全面撤退を考えていなかったと判断。「官邸への伝え方が最大の問題」として、清水氏のあいまいな説明で意思疎通がうまくいかず、官邸の不信を招いたと結論づけた。
 両者が相互不信を高めた背景には、危機管理の責任の所在が不明だったことがある。問題の根は、国が原子力利用を推進して民間企業が原発事業を担う「国策民営」体制にあったと、民間の有識者が設けた福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)は指摘した。
 事故調は6月中に最終報告書をまとめる。危機管理の不備を生んだ無責任の積み重ね。こうした「負の歴史」にどこまで踏み込めるかが焦点だ。

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