2012年7月7日土曜日

国会に設置された原発事故調査委員会

国会事故調 どう責任を追及したか

7月6日 21時50分
「自然災害」でなく「人災」。
国会に設置された原発事故調査委員会は、報告書で、東京電力福島第一原子力発電所の事故原因をこのように結論づけました。
事故原因の解明と共に、責任の所在を明らかにすることを目指した調査委員会の報告書の内容、そして、この報告書が今後、どのように扱われるのか。

国会事故調とは

国会の原発事故調査委員会は、政府から独立した立場で、事故原因や事故後の対応を究明するため、法律に基づき、去年12月に設置されました。
委員長には、黒川清元日本学術会議会長が就任。
民間人で作る調査機関が国会に設置されるのは、憲政史上初めてです。
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事故調の活動

調査委員会は20回の委員会を開き、合わせて38人の参考人を招いて質疑を行いました。
私は、20回の委員会を全て傍聴してきました。
ことし5月14日の委員会では、東京電力の勝俣前会長が参考人として招致されました。
委員が「平成18年に、原発に津波が来たら全電源喪失の可能性があるという情報があった。事前に知らなかったのか」と追及しました。
これに対し、勝俣氏は「事故後に初めて聞いた。大きな反省事項かもしれない」と述べ、事故を回避できる可能性を逃していたことを明らかにしました。
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このとき、黒川委員長が記者会見で、「勝俣氏ら経営陣が、津波が来た場合の電源喪失という重大なリスクを経営に反映しなかった責任は問われるのではないか」と述べ、責任の所在を明らかにしようという姿勢を鮮明にしたのが強く印象に残っています。
5月28日の委員会では、菅前総理大臣が招致されました。
委員が事故直後の総理大臣官邸での状況について尋ねると、菅氏は「現場の状況について、情報が上がって来ず、手の打ちようがない怖さを感じた」などと述べ、政府の情報集約が機能していなかった状況を明らかしました。

報告書では

【事故は「人災」】
報告書では、今回の事故について、「これまで何回も対策を打つ機会があったにもかかわらず、歴代の規制当局と東京電力の経営陣が、それぞれ意図的な先送り、不作為、または、自己の組織に都合のよい判断を行うことによって、安全対策がとられないまま、3月11日を迎えたことで発生した」としています。
さらに、歴代の規制当局と東京電力の関係について、「規制する立場と、される立場の『逆転関係』が起きた結果、原子力安全の監視・監督機能が崩壊していたとみることができる」としています。
そのうえで、「何度も事前に対策を立てるチャンスがあったことに鑑みれば、今回の事故は『自然災害』ではなく、明らかに『人災』である」と結論づけました。
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【東京電力と規制当局の構造的問題】
事故を起こした東京電力については、「規制された以上の安全対策を行わず、事故対応では現場よりも官邸の意向を優先して混乱を招くなど、経営陣の姿勢は、原子力を扱う事業者としての資格があるのか疑問だ」などと厳しく批判しています。
そのうえで、「官邸の過剰な介入などを責められる立場にはなく、むしろ事故対応の混乱を招いた張本人だ」として、「東京電力の経営陣の姿勢は、原子力を扱う事業者の資格があるのか疑問を持つ」と指摘しています。
一方、原子力安全・保安院など、国の規制当局に対して、「専門性の欠如などから、事業者の虜となり、事業者の利益を図ると同時にみずからの責任を回避してきた。原子力の推進官庁や電力会社からの独立性も形骸化し、その能力においても国民の安全を守るには程遠いレベルだった」としています。
そして、「規制する立場とされる立場の『逆転関係』が起き、規制当局は、電力事業者の虜となっていた」と指摘し、今回の事故の背景には、原子力発電を巡る国と事業者の癒着体質、なれ合い構造があったと指摘しています。
【官邸介入が混乱を拡大】
また、当時の総理大臣官邸の対応について、「官邸による発電所の現場への直接的な介入が、現場対応の重要な時間を無駄にするだけでなく、指揮命令系統の混乱を拡大する結果となった」と指摘しています。
その具体例として、事故現場で指揮をとった吉田前所長が、「本店が、(海水注入を)止めろというなら議論ができるが、全然、わきの官邸から電話がかかってきて止めろというのは何だ。電話だから十分な議論ができない。指示命令系統がムチャクチャで、もう最後は自分の判断だと思った」などと証言していることも紹介しています。
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【全面撤退は?】
今回の事故では、菅前総理大臣ら当時の政権幹部は、東京電力から「作業員全員の撤退を打診された」という認識を示していますが、東京電力側は、打診していないと主張しており、双方の言い分が食い違っています。
これについて、報告書は「発電所の現場は、全面退避を一切考えておらず、東京電力本店でも退避基準の検討は進められていたが、全面退避が決定された形跡はない」としています。
そして、「『全面撤退』の問題は、清水元社長の曖昧な相談と、海江田元経済産業大臣ら総理大臣官邸側の東京電力に対する不信感に起因する行き違いから生じたものと考えられる」としたうえで、「菅前総理大臣が『全面撤退』を阻止したという事実は認められない」と結論づけています。
さらに報告書では、菅氏が東京電力本店を訪れた際の発言について、「東京電力の記録では、『被害が甚大だ。このままでは日本が滅亡だ。撤退などありえない。命懸けでやれ。逃げてみたって逃げ切れないぞ。60歳になる幹部連中は現地に行って死んだっていいんだ。俺も行く』などと激しい口調で演説を行った」と明らかにしています。
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【事故原因は地震か津波か】
福島第一原発の事故の直接的な原因については、東京電力が、先月みずからまとめた最終の調査報告で、「想定を超える津波」が主な原因だとして、解析などを根拠に現時点では、安全上重要な機器への地震の影響はなかったとしています。
これに対し、報告書は、専門機関の解析や当時の運転員の操作状況などから、「安全上重要な機器への地震による損傷がないとは確定的に言えない」として、調査や検証といった実証なしに津波だけに原因を限定すべきではないとしました。

提言

報告書では、今回の事故の教訓を生かすため、提言も行っています。
この中では、国民の健康と安全を守るため、国会に原子力の問題に関する常設の委員会を設置すべきだとしています。
また、報告書で扱わなかった原子炉の廃炉の道筋や、使用済み核燃料の問題などを取り扱うため、国会に専門家からなる第三者機関として独立調査委員会を設置することを提案しています。
そして、国会に対して、「提言の実現に向けた実施計画を速やかに策定し、進捗状況を国民に公表することを期待する」と国会の速やかな対応に期待を示しています。
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政界の受け止めは

菅前総理大臣は「総理大臣官邸の事故対応に対する評価や、東京電力の撤退を巡る問題など、いくつかの点について、私の理解とは異なるところがある」というコメントを出しました。
自民党の谷垣総裁と公明党の山口代表は、国会が独自に設けた機関の報告書であり、国会でしっかり質疑すべきだという認識で一致しました。
また、与野党双方から、この報告書でほかの原発の安全性にも疑問が生じたとして、その是非を検証する必要があるなどという指摘も出ています。
ただ、民主党内では、「政治に介入しすぎている」という指摘や「政治的中立性に疑問がある」などという声も出ています。
報告書をどのように取り扱うか、法律に規定はなく、国会の判断に委ねられています。
委員会の指摘や提言をどのように生かすのか、原発の再稼働や規制組織の在り方が国民の注目を集めているなか、政治の取り組みが問われています。

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