2012年10月23日火曜日

反日デモで行き詰る中国経済

「日本外し」で冷え込む中国生産 反日デモ1カ月
入札締め出しや商談延期も

2012/10/20 0:01

 中国各地で「反日デモ」が発生してからおよそ1カ月が過ぎた。
足元でデモは収束し、暴徒に襲われた日系スーパーは営業を再開した。
だが中国の消費者や企業が日系企業の製品購入を敬遠する動きは続く。
日本企業を入札から締め出し、商談を延期する国有企業もある。
生産の停滞は続き、中国ビジネスの先行き不透明感が強まっている。
不買止まらず



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 日系小売店の利用や日本製品の購入を敬遠する風潮は収まっていない。大規模デモがあった成都市のイトーヨーカ堂店舗は販促活動を再開。売り上げは回復基調だが、前年水準にはまだ届かない。三越伊勢丹ホールディングスの天津市の店舗の売上高は10月も前年同期より20%少ない。

 デモで被害を受けた山東省青島市の「ジャスコ黄島ショッピングセンター」は1日から営業を順次再開。湖南省で3店舗が襲撃された百貨店「平和堂」は復旧作業を急ぐ。だが中国の調査会社によると「9月下旬から10月上旬の売上高が半分まで落ち込んだ日本ブランドが多い」と指摘する。

 企業も日本製品の購入を減らしている。保利集団(北京市)、融僑集団(福建省)など不動産開発大手は9月から日本製品の購入を取りやめ、日立製作所東芝などのエレベーターやエアコンの採用を見送った。

 国有企業を中心に工場設備の入札で日本企業を締め出す動きも広がり、トップ間の商談が中止や延期に追い込まれるケースがある。一部企業は社員に対して日本製品を買わないよう求めている。

 日系自動車メーカーの新車販売台数は9月、前年同月比で大幅に減った。10月も日本車の販売は持ち直していないもようで、各社は減産を余儀なくされている。トヨタ自動車は22日~26日、天津市の合弁工場で3つあるラインのうち2つを停止する。日産自動車ホンダも月内の生産水準は通常の半分程度だ。スズキも重慶市にある合弁工場で減産を検討する。

 NECグループの照明メーカー、NECライティングは、上海の工場に新設した発光ダイオード(LED)照明の生産ラインの稼働見通しが立たない。安全認証規格の認可が当局から下りないためだ。

改善探る動きも

 中国側も不買一辺倒ではない。米アップルなどの製品を受託生産している台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業傘下の富士康科技集団(フォックスコン)に対する日系メーカーの販売は好調を維持している。中国ブランド製品向けの基幹部品供給は影響を受けていない。

 日本製品不買運動で日系工場の稼働低迷が続けば、減速が続く中国の景気にも打撃となる。東北部のある地方政府は年内に日本で投資説明会が開催できないか探るため、日系企業などに「参加企業を集めてほしい」と呼びかけ始めたという。
 

中国景気に「反日」のツケ 不買の代償、縮む生産
                            2012/10/24 2:07

 中国は国内総生産(GDP)の伸び率が7四半期連続で鈍化した。
堅調だった個人消費も息切れが目立ち、公共投資も大きな工事が盛んに動いている気配はない。
日本と中国の経済が一体性を増すなかで、反日感情の高まりが生産や投資の下押し要因となりかねない。
自動車販売台数第2位の国有企業大手、東風汽車集団(湖北省)、同6位の広州汽車集団(広東省)の株価は9月中旬以来、一時16%も下落した。原因は日本車不買の広がり。東風汽車は日産自動車とホンダ、広州汽車はホンダやトヨタ自動車と合弁で日本ブランドの車を現地生産している。


合弁の打撃深刻


9月の日本車販売は前年同月比4割減。日産、トヨタ、ホンダの株も一時1割前後下げたが、合弁相手ほどではない。日本企業の中国での販売比率は最大の日産で25%程度だが、合弁相手の中国2社の日本ブランド車依存率はそれぞれ4割、9割と影響がより深刻だ。


中国で昨年販売した日本ブランド車は全体の2割にあたる約350万台。うち9割を中国で生産する。部品の現地調達率も9割前後になっており、日本ブランド車の実態は「中国車」だ。日本ブランド車の販売・生産が減少すれば日本企業は投資収益が主に悪化するが、中国では工場や販売店を持つ地域のGDPの減少に直接つながる。


自動車に限らず、家電、食品など中国で販売する日本ブランドの消費財は多くが現地生産だ。富士通総研の柯隆主席研究員は「日系企業の苦境が長引くことは中国側も望んでいない」と話す。中国では日系企業約2万5千社が納税し、取引先を含む雇用創出は1千万人に達すると柯氏はみる。

 欧州危機で海外からの中国への直接投資額は1~9月に前年同期比3.8%減と低迷するが、日本からは17.0%増と勢いを保っていた。だが、15日に広東省広州市で始まった貿易見本市「中国輸出入商品交易会(広州交易会)」では、開幕4日目までに日本のバイヤーが前年比35%減った。
日系撤退を危惧
 日本からの投資、日本への輸出が減れば景気浮揚は難しくなる。京セラ、TDKなど日系約500社が進出する生産拠点の同省東莞市。市政府の担当者は日系企業に「困ったことがあれば連絡してほしい」と声をかけている。日本企業の撤退だけは避けたいからだ。

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 日本企業製の部材のボイコットも呼びかけられているが、実現は難しい。台湾のEMS(電子機器の受託生産サービス)最大手の鴻海精密工業は、米アップルのタブレット(多機能携帯端末)「iPad(アイパッド)」などを日本製部材を使って中国で生産している。
 鴻海グループだけで中国の輸出の3~5%に達するとされ、日本製部材の供給停止で生産が止まれば打撃は大きい。工場がある四川省の税関関係者は「iPad向け日本製部材は滞りなく通関させている」と明かす。
 中国企業も日本製品なしではやっていけない。家電大手のTCL集団(広東省)は13日、「8.5世代」と呼ばれる最新鋭の液晶パネル工場がフル生産に入ったと発表。だが、日本の旭硝子のガラス基板を調達できないと、緒に就いたパネル国産化が停滞する。
 日系企業製品のボイコットを続ければ中国の消費、生産、輸出、投資のあらゆる経済活動が縮小に向かう。9月の日本から中国への輸出は前年同月比14%の減少。大きな落ち込みではあるが、同じように領土を巡って対立するフィリピンの8月の対中輸出の42%減ほど深刻ではない。
 中国側が景気を意識し、まだ日本に対しては節度をもって対応している姿が見て取れる。だが、日本企業外しや製品ボイコットが長引けば日本側の経済活動も縮小に向かう。それがさらに中国の景気悪化に跳ね返る負のスパイラルに陥る。

中国の日本製品不買、iPhoneにも波及するか
アジア部次長 村山宏          2012/9/16 7:00

 中国全土で反日デモが起こった。デモでは「日本製品をボイコットしよう」といったスローガンも目立つ。中国のネットでは米アップルの新型スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)iPhone(アイフォーン)5は「部品の多くが日本製であり、買うべきではない」との議論さえある。中国の日本製品ボイコットはどこまで可能なのだろうか。

反日デモで、日の丸に「日本製品ボイコット」などと書き行進する人たち(13日、北京)=共同
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反日デモで、日の丸に「日本製品ボイコット」などと書き行進する人たち(13日、北京)=共同
 中国商務省の姜増偉次官は13日の記者会見で「消費者が理性的な方法で立場や考えを表すことは権利であり、理解できる」と述べ、日本製品のボイコットを認めるような発言をした。中国政府高官のお墨付きを得て、ネットでは日本製品の不買の呼びかけが勢いを増した。不買の矛先は中国でも人気のあるアイフォーンにまで及んでいる。
 アイフォーン5は半導体メモリーや液晶パネル、コンデンサーなど日本企業の部品を大量に採用しているといわれ、東芝やエルピーダメモリ、ジャパンディスプレイ、村田製作所、TDKが部品を供給しているようだ。こうした情報を聞いた中国の消費者が「アイフォーンをやめてサムスン電子や中国メーカーのスマホを買おう」とネットで呼びかけた。
 ただ、サムスンや中国企業の製品に切り替えたところで完全に日本製部品を排除するのは難しい。サムスンもやはり日本企業製品とは無縁ではないからだ。パネルの材料として住友化学などの日本企業製品を採用しており、半導体や液晶の製造ではニコンなどの装置を使っているとみられるからだ。
 中国の携帯端末メーカーは台湾企業の部品を採用する例が多いが、台湾製でも半導体の基盤となるウエハーやパネルの基盤となるガラスの多くが日本企業製だ。東アジアでは、原材料を日本企業が提供し、半導体などの中間財を韓国・台湾が担い、中国で最終製品に組み立てるといった分業体制が確立している。分業ネットワークから日本企業製品を除けば、どんな企業でも生産がおぼつかなくなる。
 受託生産の普及も単純な日本製品ボイコットを難しくしている。中国家電大手のTCLは東芝、ソニー、パナソニックの製品を受託生産している。日本製品の不買で傷つくのは日本企業だけでなく、中国企業に及ぶ可能性もあるのだ。ユニクロのブランドで知られるファーストリテイリングなど衣料関連企業も中国の縫製工場に生産を委託しており、売り上げが減れば中国工場への影響は免れない。


 日本の自動車メーカーは中国で販売する製品のほとんどを中国内の工場で生産している。日産自動車は河南省・鄭州で工場を稼働したほか、遼寧省・大連にも新工場建設を予定する。自動車産業の手薄だった地域であり、自動車部品産業の育成も含めた地元経済への波及効果は大きい。日本車ボイコットを続ければ内陸開発や東北振興も滞りかねない。中国政府は省エネタイプの自動車の普及を目指しているが、省エネでは定評のあるトヨタ自動車のハイブリッド車や日産の電気自動車を排除しては技術移転も進まない。

 意外だが、日中経済のつながりは食料にも及ぶ。中国では穀物の国内需要が間に合わず、輸入が増えている。特に大豆は国内消費の7割超が輸入だ。大豆から食用油をしぼるほか、カスは飼料にもなる。中国は米国から大豆を輸入してきたが、米国の干ばつの影響を考慮し、最近はブラジル産の輸入を増やす傾向にある。ブラジルで大豆の生産、集荷、輸出に関わっているのは、三井物産をはじめとする三菱商事、丸紅の日本勢だ。丸紅は「当社がブラジルから輸出する大豆の95%が中国向け」という。

 丸紅は中国の中儲糧油脂、山東六和集団と飼料合弁事業を展開。三菱商事は昨年、中国最大の食料関連国有企業である中糧集団(COFCO)との間で年間最大500万トンの大豆を供給する契約を結んだ。中国の消費者が、日本企業が提供するからといって食用油や、大豆カスを与えて育てた豚の肉を拒否するわけにはいかないだろう。むしろ日本企業の協力がなければ大豆不足から食料インフレを助長してしまいかねない。

 日本、韓国、台湾、中国の東アジアは市場を通じて緩やかな経済圏を構成している。政治的なあつれきで市場のネットワークが崩れれば、関連する国家・地域のすべてが経済的な利益を失う。どこか一つの地域や企業だけが得をし、損をする関係ではない。

 2005年、10年の反日デモでも、日本製品のボイコットが訴えられたが、長続きはしなかった。理性的に考えれば市場のネットワークを壊すわけにはいかないからだ。今回もまた、市場でつながる東アジアの経済圏は政治的な危機を乗り越え、繁栄を維持できるのだろうか。

 

 


 

 

 

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