2012年10月24日水曜日

日本企業なしでは生きて行けない中国

日本企業の進出渇望する地域も 「一つでない中国」 広州支局 桑原健

2012/10/25 7:00
 沖縄県の尖閣諸島を巡る対立で「反日」一色に染まったかに見える中国。
だが、一皮むけば、多様な利害を持つ地域の集まりであることが見えてくる。
すでに地元経済の維持に日本企業が欠かせなくなった地域、
今なお日本企業の進出を渇望する地域など日本との関係を見ると事情はさまざまだ。

東日本大震災後に原発冷却作業用のポンプ車を提供した建機大手・三一重工の工場を訪れた丹羽大使(右前、2月、湖南省長沙市)
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東日本大震災後に原発冷却作業用のポンプ車を提供した建機大手・三一重工の工場を訪れた丹羽大使(右前、2月、湖南省長沙市)

 9月中旬、キヤノンやカシオ計算機など日系電機大手の工場で反日デモが広がった広東省中山市。
デモに参加した従業員たちからは賃上げ要求も飛び出した。
混乱を押さえ込んだのは市政府だ。
  企業に対し、賃上げ要求に応じることを一律に禁止。
デモなどを扇動した人物の告発に最高1000元(約1万2000円)の奨励金を支払うという通知も出した。

 同じ広東省の東莞市。「政治的に微妙な時期で、あまり大きな声では言えないが」――。
日本企業関係者によると、市政府の担当者はこう断ったうえで、
進出企業に「困ったことがあれば連絡してほしい」と声をかけているという。
税関での輸入手続きが遅れるなど各地での日本企業への逆風が吹きすさぶなかで、
進出企業への配慮を見せている。

 中山、東莞両市とも雇用や税収の維持に日本企業の活動が欠かせない地域だ。
中山市の工業の中心地である火炬開発区には、
従業員が数千人規模のキヤノンやカシオなど日本から48社が進出。
年間生産額が2000万元以上の工場のうち1割超を占める。
東莞市には日本企業約500社が進出し、輸出低迷に苦しむ地域経済を支える。
同市では香港や台湾の企業も工場を構えているが、
技術力や製品の付加価値は日本企業ほど高くはない。

 「日本側と工場労働者の技能標準を共通化できないだろうか」。
7月に東莞市政府を訪れた際、労働行政部門の幹部からこんな質問を受けた。
出稼ぎ労働者の供給源だった内陸の雇用拡大や若者の工場離れにより、
市内の工場は労働者確保に苦労している。
このため、市政府は技能を教える学校の新設などの供給拡大策に着手。
日本企業との間で必要な技能のイメージを共有できれば、人材供給が円滑になり、
より多くの企業を誘致できるというのが、この幹部の着想だった。

 経済発展で先行した東莞市などの広東省では、
人件費の上昇による労働集約型産業の競争力低下に直面。
先端技術の導入やサービス業の拡大など産業の高度化と構造転換で
日本企業への期待が大きい。
 これに対し、まずは幅広い日本企業に進出してほしいというのが東北部など
今後の成長を目指す地域だ。
すでに日中が緊張関係にあった9月上旬、
吉林省長春市では日本企業を招いた商談会が開かれた。
東北部のある地方政府は年内に日本で投資説明会を開けないか探っているという。

 「一つの中国」。中国が台湾などとの一体性を強調する時に使ってきた言葉だ。
だが、中国大陸だけを見ても、地域によって事情はさまざまだ。
日本との関係の深さが違えば、産業の発展段階や個人の所得水準も違う。
  北京市や上海市のように
1人当たりの域内総生産(GDP)が1万2000ドル(約96万円)を超えた都市があれば、
貴州省のように2000ドル台にとどまる地域もある。
13億人が住む広大な国土は、まさに「一つでない中国」だ。

 内陸の湖北省武漢市では2011年に1人当たりのGDPが1万ドルを突破した。
日本貿易振興機構(ジェトロ)の天野真也・武漢事務所長は
「中国の都市では1万ドルを超えた段階で日本企業の商品が売れるようになる」と語る。
 同市では11年にファーストリテイリングのカジュアル衣料店「ユニクロ」と
良品計画の総合雑貨店「無印良品」が出店。
イオンは大型ショッピングセンター(SC)を展開する方針を固めた。
めざとい企業は中国の地方各地に訪れる変化を見落とさない。

 民間から異例の起用を受けた伊藤忠商事出身の丹羽宇一郎駐中国大使。
これまで2年あまりの任期中、コツコツと続けてきた活動がある。地方各地の訪問だ。
全土に33ある省などの行政区のうち、大使館のある北京市を含めて27カ所を訪れた。
各地で企業などの現場に赴き、地方指導者や学生とも交流した。
 尖閣問題を巡る発言が批判を浴び、近く退任するが、国と国の関係だけにとらわれず、
地方の実情を見て日本との関係を深めようとする姿勢は中国の現実に合ったものだった。

 9月の反日デモでは、地元に密着し地域経済に貢献してきたパナソニックの工場や
平和堂の店舗が襲撃される悲劇が起きた。
日本の企業が中国リスクをとらえ直し、
中国以外への進出などのリスク抑制策を探るのは当然の判断だ。
中国に背を向ける選択肢もあるだろう。
だが、中国を不可欠な市場と考え、関係の強化や新たな商機を探るなら、
改めて各地の事情に目をこらしてみてもよさそうだ。

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