2012年9月20日木曜日

「私、早退(早期退職)します」 実現への覚悟と準備

「定年前にさっさとリタイアして、余生をのんびりと幸せに過ごせないだろうか」。こんな風にふと思ったとしても、すぐに実行できる人はそう多くありません。ただし、早期退職を想定することは、退職後の生活や家計のあり方を真剣に考えるいいきっかけになるかもしれません。引退後のライフスタイルをイメージして、残された時間から逆算すると、現役時代に何をすべきかを明確にすることができます。幸せな「早退」(早期退職)を実現するためのポイントを検証しましょう。

 「日経マネー」がこれまでに取材した「退職父さん」の中には、定年を待たずに「早退」(早期退職)し、リッチに暮らす人が何人もいた。これらの人の家計管理を見て分かったのは、やはり退職後に自分と家族が生活していけるだけの十分な貯蓄をあらかじめ用意できるかどうかがカギになっていることだ。さらに、貯蓄額に加えて退職後も毎月何らかの収入源があると心強い。では一体、いくらの月収があれば「早退」後も生活していけるのか。年齢や貯蓄など、条件ごとに退職後に最低限必要な月収を「日経マネー」は調べた。それが図1の「早期退職サバイバル力」早見表だ。

図1 「年齢」「貯蓄」「退職金」の3要素で分かるあなたの「サバイバル力」早見表
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図1 「年齢」「貯蓄」「退職金」の3要素で分かるあなたの「サバイバル力」早見表


年齢、貯蓄、退職金から必要な月収を逆算しよう

 図1の見方を説明すると、まず縦軸で自分の貯蓄額をチェックする。次に横軸で自分の年齢と退職金(だいたい当てはまるものでOK)を探し、クロスしたところの数字をメモしよう。この数字が、公的年金支給開始(65歳として計算)までに生活するために最低減必要になる毎月の収入額だ。1カ月の生活費は、平成22年の総務省「家計調査 」から、高齢者総世帯の毎月の支出を約25万円として試算した。

 ただし、65歳以降の生活費はすべて年金でまかなう前提なので、この水準さえクリアできればいいという数字ではない。あくまで「最低限必要な月収」が分かるための早見表だ。ここから少しでも多く積み上げるよう準備したい。

 では具体的に見ていこう。「早退」に向けての「サバイバル力」は、「早退」年齢、そのときの貯蓄額、そして会社からもらえる退職金額から逆算できる。
 例えばあなたが現在50歳で、貯蓄額が1500万円、退職金が1000万円だとすると、「早退」してからの生活費は、25万円×12カ月で年間300万円。年金支給開始(65歳)までの15年間では合計で4500万円になる。貯蓄1500万円と退職金1000万円を使い切ったとしても、2000万円が不足する。つまり、毎月平均約11万円の収入が不可欠だということだ。
 1カ月に11万円なら夫婦2人でアルバイトをして稼げる金額かもしれない。さらにこれまで培ったスキルと人脈を駆使してもっと稼げば、毎月の収支は黒字になる。逆に11万円を稼ぎ続けることができなければ、家計は赤字に転落し、いつかは破産ということも考えられる。同じ55歳で「早退」する場合でも、貯蓄と退職金が合計して4500万円以上あれば、65歳までの生活費を貯蓄だけでまかなえる計算になる。
 ただ、子供が独立していない場合は要注意。「教育費は50代がピーク。大学生の子供が2人いれば年間200万~300万円かかることもあります」(ファイナンシャルプランナーの豊田眞弓さん)。
 さらに今後は公的年金も企業年金も、これまでのように受給できる可能性は低い。十分に資産設計をしてから「早退」を決意しよう。

■おカネだけはない、「早退」に必要なココロと体

 さて「ハッピー早退父さん」の共通点は、おカネの計算が上手なことだけではない。セカンドライフを自分色に染めることができる夢や生きがいへの挑戦が不可欠だ(図2)。せっかく会社を辞めたのに、目の前の生活や世間体にとらわれて夢を追うどころではなくなってしまっては意味がない。まずは人生のセカンドステージで自分が思い描く生き方を整理してみよう。

図2 幸せな「早退」に導く3つの掟(おきて)  退職の前にこれらの宿題を済ませておくことが、ハッピーな「早退」につながる。
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図2 幸せな「早退」に導く3つの掟(おきて)  退職の前にこれらの宿題を済ませておくことが、ハッピーな「早退」につながる。


 その生きがいを理解してくれる妻の存在も重要だ。FP事務所ガイア代表取締役社長の中桐啓貴さんは、退職前後の夫婦に向けて図3のような「人生ロードマップ」を記入することを勧めるという。

図3 ある夫妻の退職後の夢  妻は友達と韓国旅行、夫は妻と史跡巡り。夫は車購入、妻は妹と暮らすなど、夫婦で夢が違う例は珍しくない。
図3 ある夫妻の退職後の夢  妻は友達と韓国旅行、夫は妻と史跡巡り。夫は車購入、妻は妹と暮らすなど、夫婦で夢が違う例は珍しくない。

 このロードマップには、ゴール(目標)と達成する日付、必要資金額、達成できたときの(予想される)感情を具体的に書き込む。この作業を夫婦別々ですると、自分の意外な欲望や盲点だった夫婦の意識の違いがあらわになるという。「よくあるパターンは旅行の計画。夫は妻と一緒に欧州旅行をしたいのに、妻は友達と韓国エステ旅行に行きたいなど、掘り下げていくと見解の違いが見えてきます」と指摘する。さらに意外なことに「自分の余命を計画する」ことも効果的とのことだ。「あと何年生きるか、一度立ち止まって考えてみて。余生が20年としたら、やりたいことや必要資金などが具体的に把握できます」(中桐さん)。

■我が家の「価値観の階段」を具体的に作ってみよう

 「早期退職の準備として、夫婦でお互いの価値観を語り合おう」といっても、何から話せばいいのだろうか。 中桐さんは図3の「人生のロードマップ」と共に、「価値観の階段」を作ることを提案する(図4)。

図4 「価値観の階段」を作り、自分が何を重視しているのかを再確認しよう
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図4 「価値観の階段」を作り、自分が何を重視しているのかを再確認しよう


 まず図4左側の質問に答えていく。Q1の「おカネによって何を得られますか?」という問題に答え、次はその得られたものからさらに何を得られるかをQ8まで書き込んでいくという手法だ。これでQ1からQ8へと続く価値観の階段が出来上がり、自分が何を目指そうとしているのかが確認しやすくなる。「ポイントは、おカネが価値観の階段の中で一番下にあること。おカネは目的ではなくツールにすぎない。そのツールを使って何を得たいかを具体的に書き込むことで、自分のブレない価値観を再確認できます」(中桐さん)。

 中桐さんに相談に来た千葉県在住の木村和幸さん(仮名・52歳)は、退職後を見通して資産約7000万円の運用方法に頭を悩ませていた。家族は妻(45歳)、長男(25歳)、長女(22歳)の4人家族だ。木村さんは「価値観の階段」を作っていく上で、今まで仕事で忙しくて妻との時間が取れず、退職後は妻との時間をゆっくり作りたいという思いが強いことが分かった。さらに、心の充実感を求めていることや、お世話になった地元へ夫婦で社会貢献をしたいという価値観が見えてきたそうだ。

 また、「人生のロードマップ」には、経済的に自由になるために3年後には資産1億円に達成し、その後は夫婦で南仏旅行に行き、2世帯住宅を建てて孫の面倒を見たいということも書き込んだ。

 この作業を通して、木村さんはまず、保有株式や投資信託を見直し、安定的なリターンが得られるような債券中心の投資配分に見直した。そして、妻との旅行には200万円、2世帯住宅建設には3000万円使うと決めた。

 「価値観を夫婦で確認した上で、夢や挑戦を具体的に挙げていく。するとゴール(退職後)に向かって軌道修正することができます」(中桐さん)。「早退」志望者も、定年退職者も、夢ややりがいを実現させるための具体的なワークフローとして、上の3ステップを一度試してみてはどうだろう。

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